企業の長期財務安全性を評価するために使用される指標として、固定比率と固定長期適合率があります。今回は、固定比率と固定長期適合率の違いや計算方法をわかりやすく解説し、正確な企業の安全性評価を行う方法を紹介します。
固定比率・固定長期適合率は長期安全性分析の指標
企業の健全性を評価するとき、収益性、効率性、安全性、生産性の観点から検討することが多いです。安全性分析には、短期的な視点と長期的な視点があります。短期的な視点では、流動比率や当座比率などの指標が使われます。
一方、長期的な安全性分析には、固定比率や固定長期適合率といった指標が使われます。これらの文字からも分かるように、「固定資産」に着目した計算指標になります。
例えば、パン屋を開業する場合に、1,000万円分の建物やオーブンなどの厨房器具が必要だと仮定します。このとき、借金をして固定資産を購入する場合と、全額を自己資本によって購入する場合を比較すると、前者の場合に倒産リスクが高くなります。
借金によって固定資産を購入していた場合、例えば災害や感染症の流行などによって客足が途絶えた場合、借金返済のために固定資産を売却しなければならなくなるからです。
固定資産は稼働させなければ売上につながらないため、できるだけ借金をしないで購入することが望ましいです。これを数値化したものが固定比率や固定長期適合率になります。次に計算式を利用して説明していきます。
固定比率の計算式と適正目安
固定比率の計算式を説明し、意味について順番に説明していきます。以下は固定比率を求めるための計算式になります。
$$固定比率=\frac{固定資産}{自己資本}×100$$この計算式の意味としては、「自己資本」に対して保有している「固定資産」がどの程度カバーできているかを表す指標です。例えば、流動比率が100%である企業を考えてみましょう。計算式にすると以下のようになります。
$$固定比率=\frac{1,000万円}{1,000万円}×100$$資本金や利益剰余金によって1,000万円を稼いだ実績がある企業が、1,000万円分の固定資産を保有している状況は安心感があります。
一方で固定比率が50%の企業を考えてみましょう。計算式にすると以下のようになります。
$$固定比率=\frac{1,000万円}{500万円}×100$$返済義務のない資金が500万円しかないため、500万円の借金をして1,000万円分の固定資産を購入していることが分かります。非常にチャレンジャーな企業であることが分かります。
こうしたイメージからも分かるように、固定比率が大きいほど長期安定性が優れている企業だと言えます。一般的には固定比率は100%以上が望ましいと言われています。
自己資本の具体例と注意点
さてここまでの説明では「自己資本」とは何か?と疑問が残ります。簡単な説明だと貸借対照表の「純資産」から「新株予約権」と「非支配株主持分」をマイナスしたものです。
利益剰余金や資本金という言葉は少し難しく、イメージしにくいかもしれません。そこで、分かりやすい例によって説明します。
例えば、子供が1ヶ月で1,000円のお小遣いをもらい、600円分のお菓子を買い、父親から無条件で100円をもらった場合、貯金箱に残っているのは500円です。このとき、利益剰余金は1,000円、資本金は100円、自己資本は1,100円になります。
ここで注意が必要なのは、自由に使える現金500円が自己資本ではなく、過去に自己調達した資金の総額であることです。
固定長期適合率
固定資産を調達するとき、自己資本だけで調達できると倒産リスクが低いことは前述の通りです。しかし、実際のところは自己資本だけで賄うことは難しいです。
ただ借金をするにしても、返済期間の短い負債より、返済期間の長い負債である方が、資金繰りが楽になります。返済期間が短いと、現金回収が追いつかなくなり、運転資金がショートします。
そこで固定資産に対して、自己資本と固定負債でどの程度、賄うことができるかを示す指標として固定長期適合率を使用します。
$$固定長期適合率=\frac{固定資産}{自己資本+固定負債}×100$$例えば、固定長期適合率が100%である企業を考えてみましょう。なお自己資本は600万円、固定負債は400万円とします。これを計算式にすると以下のようになります。
$$固定長期適合率=\frac{1,000万円}{600万円+400万円}×100$$ちなみに固定比率は1,000万÷600万=167%になります。このように固定比率は自己資金だけを考慮しているため、厳しめの結果になります。また基本的に固定比率>固定長期適合率という関係になります。