ROA(Return on Asset)は企業の収益性を評価する指標として有名です。「社長の決算書の見方・読み方・磨き方」という著書においてもROAは世界的に重要視される指標であると説明されていました。

ただ実際にROAを理解して計算するとき、分子をどうすれば良いか悩みます。教科書的には事業利益ですが、ネットや書籍では経常利益や営業利益を分子にして計算する場合も見られます。

そこで、なぜROAを計算するとき事業利益を使うのかについてわかりやすく説明していきます。

ROAのイメージ

高校生でも分かるよう説明するため、ROAのイメージから説明していきます。お金を入れると、金額を増やしてくれる箱があります。図にすると以下のようになります。

世界には様々な「お金増やしボックス」が存在し、性能が異なります。例えば、以下の箱は100万円を入れると200万円にして返してくれます。

次に、お金増やしボックスの性能を比較する指標を考えたいと思います。このとき、「元手に対して、利益がいくらか」と考えると、「利益÷元手」という計算式が得られます。これをROA(Return on Asset)と言い、実際に計算すると以下のようになります。

ROAが大きい箱であるほど、効率よく元手を増やせることが理解できます。実際には箱は企業であり、ROAが大きい企業ほど収益性が高い企業だと言えます。

ROAの分子に経常利益を使わない理由

例えばROA=100%の箱がある場合、100万円を投入すると100万円増えてトータル200万円になります。もし元手が足りなくて、100万円の借金をしたとしても、結果は同じで100万円増えてトータル200万円になります。

箱自体の性能を確認したいとき、借金しているかどうかは関係ありません。求めたいROAは「投入した資金がどれだけ増えるか」だけです。ここで間違いやすいのが、ROAを計算するとき利息を考慮してしまうことです。計算式で表すと以下のようになります。

○ROA=100万÷100万=100%

×ROA=(100万-10万)÷100万=90%

たしかに、トータルとしては借金すると利益が減りますが、箱自体の性能とは関係ありません。そのため利息は考慮してはいけません。ここで財務に強い人は「利息を考慮した利益=経常利益」とピンとくるはずです。

経常利益は支払利息等の営業外費用をマイナスしているため、ROAの計算には経常利益は使ってはいけません。

ROAの分子に当期純利益を使わない理由

経常利益と同じ考え方をすれば、ROAの計算に当期純利益を使わない理由も分かります。当期純利益は法人税を支払った後の利益であることを考えると以下の図のようになります。

上図では当期純利益は30万円になりますが、いま考えているのは「ボックスにお金を入れたら、いくら増えるか」についてです。そのため、法人税の金額は関係ありません。

なお税引前利益については説明が複雑になるため省略しましたが、特別損益の金額がいくらであろうと、ボックスの前後には関与していません。そのため経常利益や当期純利益と同様にROAの計算には使用しません。

ROAの分子に営業利益を使わない理由

経常利益、税引前利益、当期純利益のいずれもROAの計算に用いませんが、営業利益でもありません。これについてもイラストを使って説明していきます。

実はROA=100%のボックスは2層構造になっており、本業と不動産によって利益をつくりだしていることがわかります。本業によって得られた利益は「営業利益」と言い、不動産によって得られた利益は「営業外利益」と言います。

しかし、いま考えているのはボックス全体の利益です。本業と不動産の内訳はROAには関係ありません。つまりROAの分子には営業利益を使ってはいけません。

ROAの計算には事業利益を使う

ROAの計算で分子に使用するのは事業利益です。事業利益を総資産で割ることによって、事業全体での収益性を評価することができます。これを図にすると、以下のようになります。

事業利益を使うことで、「企業の収益性そのもの」比較することができます。つまり、借金や節税効果を排除して考えることが可能になります。

ただし事業利益については損益計算書に登場しないため、馴染みが少ない人が多いです。実際に事業利益を使うには計算が必要になりますが、ここまで説明を読まれた方であれば簡単に導出できます。

事業利益を計算する方法は2パターンあります。まず営業利益に着目すると、以下の図のイメージになります。

ここから「事業利益=営業利益+営業外利益」となります。営業外利益は不動産収入が代表例ですが、受取配当金や有価証券売却益なども含まれます。書籍によっては「事業利益=営業利益+受取利息・配当金」と記載されることもありますが、意味は同じです。

事業利益を計算するパターンの2つ目は経常利益に着目します。これをイラストで表すと以下のようになります。

ここから「事業利益−営業外費用=経常利益」と表せます。式変形すると「事業利益=経常利益+営業外費用」となります。なお営業外費用には支払利息以外にも車載利息や有価証券売却損なども含まれます。

ROAの問題点

ここまでの説明を読むと、ROAが事業全体の収益性指標として機能することに納得できるはずです。しかし、厳密に考えるとROAは問題点を抱えています。それは分母に「無利子負債」が含まれていることです。

総資産を分解すると「総資産=無利子負債+有利子負債+自己資本」となるため、図にすると以下のようになります。

有利子負債は銀行からの借入金、自己資本は株主による出資金などであり、箱に入れるお金としては適切です。

しかし、無利子負債とは買掛金や未払金などが該当します。買掛金とは取引先から仕入れた商品等の代金の未払い分ということになります。果たして、これは箱に入れるお金として適切でしょうか。

どちらかと言えば、費用や原価として扱った方がふさわしいお金になります。そのため、分母と分子で分子で整合性がとれていない指標なのです。こうした欠点を補うために、分母から無利子負債を除外して考える「投下資本事業利益率」という指標もあります。

投下資本事業利益率=(営業利益+受取利息及び配当金)÷(株主資本+有利子負債)

まとめ

ROA(Return on Asset)を計算するとき、分子に使用するのは事業利益です。そうすることで事業全体の収益性を評価することができます。

当期純利益や経常利益を分子に使うと、借入金や法人税によって数値が変化してしまうため、事業自体の収益性に誤差が生まれます。

また営業利益を分子に使うと、営業外利益を無視することになるため、事業全体の収益性評価ができなくなります。