流動比率と当座比率:違いや計算式をわかりやすく解説

企業の財務安全性を評価するために使用される指標として、流動比率と当座比率があります。しかし、これらの指標には注意が必要であり、特に棚卸資産の存在について理解する必要があります。

今回は、流動比率と当座比率の違いや計算方法をわかりやすく解説し、正確な企業の安全性評価を行う方法を紹介します。

流動比率と当座比率の共通点

企業の健全性を評価するとき、収益性、効率性、安全性、生産性の観点から検討することが多いです。特に安全性の分析においては、「借金返済能力」が注目されます。なぜなら、借金が返済できなくなると、企業は倒産の危機に陥るからです。

「借金返済能力」を評価する際には、1年以内の短期的な視点から企業の財務状況を分析する必要があります。その際に使われる指標が流動比率と当座比率です。

流動比率の計算式と適正目安

流動比率の計算式を説明し、意味について順番に説明していきます。以下は流動比率を求めるための計算式になります。

$$流動比率=\frac{流動資産}{流動負債}×100$$

この計算式の意味としては、1年以内に支払義務がある「流動負債」に対して、1年以内に現金化できる「流動資産」がどれくらいあるかを示す指標です。

例えば、流動比率が300%である企業を考えてみましょう。計算式にすると以下のようになります。

$$流動比率=\frac{3,000万円}{1,000万円}×100$$

1年以内に1,000万円の支払義務が発生しますが、すぐに現金化できる資産は3,000万円あるため安心感があります。

一方で流動比率が50%である企業を考えてみましょう。計算式にすると以下のようになります。

$$流動比率=\frac{500万円}{1,000万円}×100$$

1年以内に1,000万円の支払義務が発生しますが、すぐに現金化できる資産をかき集めても500万円しかありません。かなり綱渡りな状態だと言えます。

こうしたイメージからも分かるように、流動比率が大きいほど返済能力があり、安全性が優れていると言えます。一般的には流動比率は200%以上が望ましいと言われています。

流動資産の具体例と3種類の分類

さてここまでの説明では「流動資産」とは何か?と疑問が残ります。簡単な説明だと貸借対照表の「流動資産」に記載される科目になります。より具体的な科目を述べると以下のようなものがあります。

流動資産 当座資産 現金・預金
受取手形
売掛金
短期貸付金
未収入金
有価証券
棚卸資産 商品・製品
仕掛品
材料
貯蔵品
その他 立替金
仮払金
前払金

これらは1年以内に現金化できる資産であるため、借金返済の原資になります。なお流動資産は3種類に分けて考えることができます。

「当座資産」は即座に現金化できる資産であり、現金に近いものだけで構成されます。一方で「棚卸資産」は商品売買をしなければ現金化できないため、現金化に時間がかかります。

「立替金」「仮払金」はいづれ支払うことになるため、現金等の当座資産と比べると、自由度が劣ってしまいます。

「前払金」は、すでに支払っている費用ですが、まだ発生していないため、会計上は資産として扱われます。ただし、形だけの資産であり、実際にはまだ支払われていない未来の費用として扱われます。

例えば、翌分の保険料をすでに支払っている場合、その保険料はまだ発生していないため、会計上は前払金として資産として扱われます。そして、実際に翌期になって保険料が発生した場合、前払金から費用として計上されます。

流動比率が高いときの注意点

流動比率は高いほど良いと説明した。しかし流動比率が高くても、棚卸資産が多い場合は安全とは言えません。

棚卸資産とは、企業が所有している商品や製品、原材料などの在庫のことです。棚卸資産が多い場合、流動資産の額が高くなってしまい、企業が実際に手元にある現金や預金が少なくなってしまう可能性があります。

このため、流動比率が高い企業の安全性を評価する際には、棚卸資産が多いかどうかを確認する必要があります。現金や預金が少ない場合、短期的な支払いに対応できなくなるリスクがあるため注意が必要です。

こうしたデメリットを解消するために使用されるのが当座比率になります。要するに、当座比率は流動比率の改良版であると言えます。

当座比率の計算式と適正目安

当座比率の計算式を説明し、意味について順番に説明していきます。以下は当座比率を求めるための計算式になります。

$$当座比率=\frac{当座資産}{流動負債}×100$$

この計算式の意味としては、1年以内に支払義務がある「流動負債」に対して、1年以内に現金化できる「当座資産」がどれくらいあるかを示す指標です。

前述の通り、当座資産には棚卸資産や前払金は含まれません。そのため、より厳密に借金返済能力を評価できる指標になります。

流動比率と同様に当座比率が高いほど借金返済能力が高いと言えます。適正目安としては、一般的に当座比率は100%以上が望ましいとされています。

違いを暗記するときのコツとして、流動比率と当座比率の分母は同じであり、分子が異なることに着目すると分かりやすいです。

まとめ

企業の短期的な安全性を評価するための指標には、流動比率と当座比率があります。これらは、借金返済能力の高さを評価することを目的としています。数値が高ければ高いほど安全性が高いと言えます。

ただし、流動資産には棚卸資産が含まれることがあるため、注意が必要です。棚卸資産は、商品を売買しなければ現金化できないため、現金・預金と比べると借金返済のスピードが遅くなります。

そこで、棚卸資産を考慮しない当座比率を見ることで、より正確な企業の安全性評価が可能になります。