「抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する」と民法369条1項で規定されています。しかし、これだけでは意味不明なため、初心者でも分かりやすく説明していきます。

担保物件

担保物権とは、借金などの返済を確実にするために、借りた側が相手の持っている財産に権利を設定する仕組みです。日本の民法では、担保物権には4種類あります。

  1. 留置権:ある物を預かっている人が、相手が支払いをするまでその物を返さなくてもよい権利です。たとえば、修理屋さんが修理代を払ってもらえないとき、その修理した物を返さないのは留置権に基づきます。
  2. 先取特権:他の人よりも優先して、お金を受け取る権利です。たとえば、賃金の未払いがあれば、従業員は他の債権者より先に給料をもらえます。
  3. 質権:お金を借りたときに、物を担保に差し出し、返済できない場合、その物を売って借金を返す権利です。質屋で品物を預けてお金を借りるケースがこれに当たります。
  4. 抵当権:土地や建物を担保にお金を借りるときに設定されますが、担保として提供しても土地や建物を使い続けることができます。返済できない場合、その不動産が売られてお金が返されます。

担保物権の性質

担保物権とは、借金を返せなくなったときに、借りた人の財産を確保して、貸した人が損をしないようにするための権利です。この担保物権にはいくつかの重要な性質があり、これを理解するためには「被担保債権」という言葉がポイントになります。

被担保債権とは、担保によって保証されている借金や債務のことです。たとえば、AさんがBさんから100万円を借りるとき、Aさんの家を担保にするとします。このとき、Aさんが借りた100万円が被担保債権です。これを踏まえた上で、担保物権には、以下の4つの性質があります。

  1. 付従性
    担保物権は借金(被担保債権)があるからこそ存在します。たとえば、Bさんがお金を貸していないのに、Aさんに担保を設定させることはできません。つまり、借金がないと担保物権は成立しないのです。
  2. 随伴性
    担保物権は借金に「ついていく」性質があります。たとえば、AさんがBさんに借りていたお金をCさんに譲った場合、担保物権も自動的にCさんに移ります。借金の移動にあわせて、担保物権も移動するという仕組みです。
  3. 不可分性
    担保物権は、借金が全額返済されるまで、担保とされている物全体に効力を持ちます。たとえば、AさんがBさんに100万円借りていた場合、50万円を返しただけでは担保物権が消えず、Aさんは家全体を引き渡さなければならないかもしれません。全額返さない限り、担保物は分けて返すことができないという性質です。
  4. 物上代位性
    物上代位性とは、担保にされた物が何か別のものに変わっても、担保物権を行使できるという性質です。たとえば、Aさんの家が火災で焼けてしまい、火災保険のお金が支払われる場合、Bさんはその保険金に対しても担保物権を行使できます。ただし、保険金を受け取る前に差し押さえを行う必要があることと、留置権にはこの性質がないことがポイントです。

抵当権の基本

抵当権を簡単に説明すると、借りたお金の保証として、家・土地などを担保にするとき設定されます。これにより、もし借り手がお金を返さない場合、担保財産が売られて、そのお金で借金を返すことができる仕組みです。

たとえば、住宅ローンで銀行からお金を借りるとします。このとき購入した家や土地を担保として設定します。もしも返済が滞ってしまった場合、銀行はその担保となった土地や建物を競売などで売却し、得たお金を使って借金の返済を行います。これが抵当権の仕組みです。

抵当権を設定できるものとして①不動産②地上権③永小作権があります。地上権は土地に建物や工作物(道路やトンネルなど)を建てることができる権利、永小作権は耕作や牧畜のために土地を使用できる権利です。ただ実際には、不動産に設定されることがほとんどです。

抵当権者と抵当権設定者

抵当権者はお金を貸し、その代わりに抵当権を持つ人、抵当権設定者はお金を借りるために自分の土地を担保に提供する人です。この区別は混乱しがちですが、覚え方として、抵当権は貸したお金が返ってこない場合に、担保の財産を売って借金を返済してもらえる権利です。したがって、抵当権を持つのはお金を貸した側だと覚えておくとよいでしょう。

優先弁済的効力

優先弁済的効力とは、他の債権者よりも先にお金を返してもらう権利のことです。たとえば、AさんがBさんにお金を貸して返せなくなった場合、AさんがBさんの土地に抵当権を持っていれば、その土地を売ったお金は他の債権者よりも先にAさんに返されます。この「先に返してもらう権利」が優先弁済的効力です。つまり、抵当権があるとお金を返してもらう順番で有利になる仕組みです。

抵当権設定契約書

物の引き渡しなどが必要なく、当事者の合意のみによって成立する契約を諾成契約(だくせいけいやく)といい、抵当権設定契約も諾成契約の一種であるため契約書は必要なく、当事者同士の合意のみで成立します。

住宅ローンで抵当権を設定する際には、抵当権設定契約書を作成します。法的には書面による契約が必要ではありませんが、トラブルを防ぐために契約書を交わし、記録を残すことが一般的です。

対抗要件として登記が必要

抵当権は、当事者間の合意によって成立しますが、第三者に対してその効力を主張するためには、登記が必要です。また、同じ土地に複数の抵当権が設定された場合、抵当権の順位は登記の順番に従って決まります。

物上保証人

物上保証人とは、他人の借金の担保として自分の財産(家や土地など)を提供する人のことです。この人は借金をした本人ではありませんが、借金が返済されない場合に、自分の財産を使って返済する責任を負います。

たとえば、AさんがBさんからお金を借りたとき、Aさんの友人Cさんが「自分の家を担保にしていい」と申し出れば、Cさんは物上保証人になります。もしAさんが返済できないと、BさんはCさんの家を売ってお金を取り戻すことができるのです。

このとき抵当権設定契約をするのはAさんとBさんであり、物上保証人であるCさんは当事者とはなりません。しかし、物上保証人は直接の借金返済義務はありませんが、財産を失うリスクがあります。

抵当権の効力:権利の範囲がどこまでか

返済が滞り、抵当権が設定された不動産を銀行が競売にかけて売りたいとき、「建物の増築部分」「庭先の灯篭」などどこまで売って良いかが問題になります。このように、抵当権者が抵当権を実行するとき、売って良いものは「抵当権の効力が及ぶ」と表現されます。

また民法第370条では「抵当権は目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶ」と記載があります。この付加一体物について具体的に説明していきます。

付加一体物のイメージは簡単に取り外しができず一体となっているものです。しかし、もう少し詳しく分類する必要があり、①付合物②従物③従たる権利④果実⑤分離物のパターンを考えます。

①付合物は不動産と分離できないものであり、例えば建物の増築部分、土地に植林された樹木などです。たとえ、抵当権設定後に付合物が増えた場合も抵当権の効力が及ぶことになります。

②従物は不動産から取り外しができるものであり、例えば畳・家具、石灯籠などがあります。従物についても付加一体物の一種であるため抵当権の効力が及びますが、抵当権設定後に設置した場合は抵当権の効力は及ばないという例外があります。

③従たる権利とは、例えば賃借権のついている不動産に抵当権が設定された場合、賃借権も一緒に抵当権の効力が及ぶことになります。

④果実は不動産にある樹木から果実(りんご・みかん等)ができた場合、そのフルーツに対して、債務不履行があった後に抵当権の効力が生じます。

⑤分離物は抵当不動産に生えた木や庭石を移動してしまった物を言います。分離物となったとしても、分離物が抵当権設定者(債務者)の所有物であれば抵当権の効力が及びますが、分離物が第三者の所有物になっていれば効力は及びません

利息は最後の2年分のみ効力が及ぶ

民法では「果実」という言葉を、果物だけでなく、何かから生み出される利益や収入を指すために使います。例えば、家賃や利息も「果実」に含まれ、債務不履行があった場合に抵当権の効力が及びます。

例えば、AさんがBさんから1000万円を年利10%で借り、BさんはAさんの1500万円の土地に抵当権を設定しました。さらに、AさんはCさんから300万円を借り、Cさんも同じ土地に抵当権を設定して2番抵当権者になりました。

もしAさんが5年間利息を支払わず、その間に500万円の利息が発生した場合、Bさんが抵当権を実行しても、Cさんの300万円は返ってこない可能性があります。後順位の抵当権者が不利になるため、民法では、抵当権によって担保される債権の範囲は元本に加えて利息や損害金など、最後の2年分に限られると定められています

このルールにより、Bさんは元本1000万円と最後の2年分の利息200万円を回収できるため、Cさんも一部返済を受けられる可能性が高まります。ただし、後順位の抵当権者がいない場合や、2年以上の利息を登記している場合は、2年分に限定されません。

法定地上権

地上権は物権の一種で、他人の土地を借りてその上に建物や構造物を建てる権利です。これに対し、法定地上権は特別な状況で自動的に発生する土地を使う権利で、土地と建物の所有者が異なった場合に、建物の所有者が土地を使い続けられることを保障します。

例えば、Aさん(抵当権設定者)が自分の土地に家を建て、その土地のみを担保にBさん(抵当権者)からお金を借りたとします。Aさんが借金を返せず、土地が競売にかけられてCさんが購入した場合、土地はCさんのものになりますが、Aさんの家はそのまま残ります。この場合、Aさんには法定地上権が発生し、土地の所有者が変わっても家を使い続けることができます

法定地上権が成立する条件は、①抵当権設定時に建物があったこと、②その時点で土地と建物が同一所有者であったこと、③競売で土地と建物の所有者が分かれたことです。

一括競売

一括競売とは、土地と建物をまとめて競売にかける制度です。法定地上権は、抵当権設定時に土地に建物があった場合に認められますが、もし抵当権設定時に土地が更地(建物がない状態)で、その後に建物が建てられた場合法定地上権は成立しません

たとえば、AさんがBさんにお金を貸し、その土地を担保に抵当権を設定しました。抵当権を設定した時点では土地は更地で、その後、Bさんがその土地に建物を新築したとします。しかし、Bさんが借金を返せなくなり、Aさんが抵当権を実行すると、法定地上権が認められないため、土地だけ競売にかけることになります。

この場合、土地と建物が別々に売却されると不都合が生じるため、土地と建物をまとめて競売にかける「一括競売」という方法が取られます。これにより、土地と建物の一体性が保たれ、よりスムーズな売却が可能になります。

前述の法定地上権は、抵当権者であるAさんに強制的に与えられますが、一括競売は強制ではありません。一括競売は、あくまで選択肢の一つとして利用できるという意味です。

抵当不動産の賃貸借

抵当不動産の賃貸借について、日本の民法では、賃借人(借りている人)の権利に関するルールがあります。

まず、賃貸借契約を結んだ後に、その不動産に抵当権が設定され、競売にかけられた場合、賃借人は新しい所有者(買受人)に対しても、住み続けることが認められます。つまり、競売後も賃借人はそのままその家に住むことができます。

しかし、借りる前にすでに抵当権が設定されていた場合は、賃借人は買受人に対して住み続けることを主張できません。ただし、競売手続きが始まる前からすでにその建物を使用している場合には、買受人に対して建物を引き渡すまでに6ヶ月の猶予が与えられます。この期間内に、新しい住まいを探すことができるのです。

抵当権を消す:代価弁済、抵当権消滅請求

AさんがBさんにお金を貸し、その土地に抵当権を設定したとします。その後、Cさんがその抵当権付きの土地を購入した場合、Cさんは第三取得者と呼ばれます。

Bさんが借金を返済できなくなった場合、Cさんの土地には抵当権がついているため、競売にかけられる可能性があります。しかし、Cさんを守るために、代価弁済抵当権消滅請求という2つの制度があります。

代価弁済では、Cさんが土地を購入するときに、その代金をBさんではなく、Aさんに支払うことで抵当権を消滅させることができます。つまり、Aさん(お金を貸した側が代価弁済を提案して、Cさんがその提案を受け入れる形で抵当権を消す方法です。

一方、抵当権消滅請求は、Cさんが主導権を持つ制度です。CさんがAさんに書面で通知し、一定の金額を弁済することで抵当権を消滅させます。この方法では、Cさん(第三取得者が提案してAさんに支払うことで、抵当権を消すことができます。

抵当権を担保に入れる:転抵当

AさんがBさんからお金を借りて、Aさんの土地に抵当権をつけました。Bさんはこの抵当権を担保にCさんからお金を借りることができます。これが転抵当です。このときBさんはAさんから承諾を得る必要はありません。

共同抵当

借りたお金の保証として、複数の家や土地を担保にするのが「共同抵当」です。例えば、1000万円の借金をした場合、甲土地と乙土地の二つに抵当権を設定することを共同抵当と言います。

もし借金の返済ができなくなった場合、抵当権者(お金を貸した側)は共同抵当を実行することができます。このとき、すべての土地を同時に実行することもできますし、一部の不動産に対する抵当権のみを実行することも可能です。

根抵当権

根抵当権は、借金を担保する権利の一つです。この権利により、債権者は借り手が返済しない場合、担保となる不動産を売却して借金を回収できます。

通常の抵当権では、例えば100万円を借りた際、その100万円に対して担保が設定されます。しかし、根抵当権は特定の債権ではなく、不特定の債権に対して設定されます。具体的には、「200万円まで貸します。その代わりに土地を担保にしてください」というイメージです。この場合、200万円のような金額を極度額と呼び、あらかじめ設定されます。

この仕組みは、継続的な取引に便利です。例えば、毎月の仕入れ債務が100万円であれば、毎回抵当権を設定するのは手間になります。しかし、根抵当権を1回設定すれば、200万円までの範囲で継続的に借り入れが可能となり、借入額を調整しやすくなります。

このように、根抵当権は複数回の借入や取引がある場合に、債権者と借り手の双方にとって効率的な担保手段となっています。

なお、根抵当権設定契約の際には、被担保債権、極度額を明確に決める必要があります。被担保債権とは、借金のことを指し、例えば「八百屋が野菜を仕入れるための借入」といった具体的な用途に限定されます。こうすることで、八百屋が不動産購入のために借金をしても、その借金は根抵当権の範囲外となります。

また、元本確定日を定めることもあります。根抵当権では、一定の範囲内で元本が変動しますが、例えば1年後の時点で借金を確定させて、以降は変動しないようにすることができます。この元本確定日は、最初の契約時に5年以内に設定されます。

元本確定日を定めない場合、根抵当権設定者(お金を貸した側)は、根抵当権の設定から3年が経過すると元本の確定を請求できます。この請求から2週間後に元本が確定します。