経済指標としてGDP(国内総生産)は有名であり中学校でも学習する内容です。しかしGNI(国民総所得)やNNP(国民純生産)など類似の経済指標が多いため混乱します。
これらを丸暗記で対応するのは厳しいです。そこで、イラストを使って分かりやすく説明します。イラストを理解すれば、それぞれの経済指標の関係性も同時に理解できる仕組みになっています。
目次
GNP(国民総生産)・GNI(国民総所得)の意味
経済指標で最も有名なのはGDP(国内総生産)です。しかし、本質を理解するにはGNP(国民総生産)の理解からスタートするのが良いです。スタート地点を間違えると混乱の原因になるからです。
GNP(国民総生産)は国民が1年間に生産した付加価値の合計のことです。付加価値の合計という意味についてイメージしやすくするため、農家と製粉業者とパン屋の関係を考えます。
まず農家が小麦を生産て300万円で販売します。これを製粉業者が300万円で購入後、小麦粉を生産して500万円で販売します。さらにパン販売店は小麦粉を500万円で購入後、パンを作って1,000万円で販売します。このとき付加価値は以下のように加算されて行きます。
つまりGNP(国民総生産)は付加価値の合計であるため、以下のような計算になります。
\begin{split}
GNP&= 付加価値の合計 \\
&=300+200+500
\end{split}
また小麦や小麦粉のように、原材料として使用する生産物を中間生産物と呼びます。そのため視点を変えるとGNP(国民総生産)は総生産額から中間をマイナスした金額としても良いです。そう考えると以下のような計算になります。
\begin{split}
GNP&= 総生産額−中間生産物 \\
&=全体−(小麦+小麦粉)\\
&=(300+500+1000)−(300+500)
\end{split}
なおマクロ経済学では生産された財・サービスは100%売れるという設定になっています。そのため生産された財・サービスは全て所得に変換されます。従ってGNP(国民総生産)とGNI(国民総所得)はイコールの関係になります。
\(GNP(国民総生産)=GNI(国民総所得)\)
例えば、日本人が1年間に生産した付加価値の合計(GNP:国民総生産)は日本人が1年間に受け取る所得の合計(GNI:国民総所得)に等しいということになります。
GNP(国民総生産)とGDP(国内総生産)の関係
GNP(国民総生産)は国民が1年間に生産した付加価値の合計と説明してきました。ここで1つ面倒なことが発生しています。
例えば、海外で活躍する日本人が生産した付加価値もGNPに含まれます。一方で日本で活躍する外国人が生産した付加価値はGNPからマイナスしなければいけません。イメージとしては以下のようになります。
少し複雑ですね。そこで日本国内での生産だけに着目して考えるとスッキリします。この考え方がGDP(国内総生産)であり、イラストで考えると以下のようになります。
ここまでのイメージを数式として整理しておきましょう。まず上図において日本国内でアメリカ人が生産した300万円は「海外への支払」と言います。これをGNPに加算します。
またアメリカ国内で日本人が生産した600万円は「海外からの受取」と言います。これをGNPからマイナスします。これを計算式で表現すると以下のようになります。
\(GDP(国内総生産)=GNP+海外への支払−海外からの受取\)
なお「海外への支払い−海外からの受取」はまとめて「海外への純支払」と表現することもできます。また「プラスマイナスの符号」と「支払と受取」を逆転することも可能です。したがって以下のように式変形ができます。
\begin{split}
GDP&= GNP+海外への支払−海外からの受取 \\
&=GNP+海外への純支払\\
&=GNP−海外からの純受取\\
\end{split}
この式変形は後から全体を見渡すときに理解しやすくするためのものです。もし混乱してしまったら、一度無視して読み進めていただくと良いです。
GDPの本質は海外生産を無視して国内だけの生産に着目した指標であることは理解しておきましょう。つまりGNP(国民総生産)から海外の影響(海外からの純受取)をマイナスするという思考に至ります。
またGDPはGross Domestic Productの略です。このDomesticというのは「国内」という意味であり海外の影響を排除しているイメージとリンクさせておくと良いです。つまりGNP(国民総生産)から海外の影響(海外からの純受取)をマイナスする理由です。
GNP(国民総生産)とNNP(国民純生産)の関係
次にNNP(国民純生産)という経済指標について説明します。ここでは一度海外のことは忘れましょう。スタート地点であるGNP(国民総生産)は付加価値の合計であるというポイントに立ち返ります。
例えばパン屋が500万円で小麦粉を購入し、1,000万円分のパンを販売したとしましょう。このときパン屋が生産した付加価値は500万円ですが、原材料のみ考慮され、費用は考慮されていません。
例えば製パン機械に年間100万円のコストが必要だとしたとき、正味の付加価値は「500万−100万円=400万円」としなければいけません。このように正味の生産額を考えるのがNNP(国民純生産)になります。計算式では以下のようになります。
\(NNP(国民純生産)=GNP−固定資本減耗\)
固定資本減耗というのが、1年あたりの機械設備や建物の費用になります。これをGNP(国民総生産)からマイナスすることで正味の生産額が計算できます。
またNNPはNet National Productの略です。このNetというのは「正味」という意味であり、固定資本減耗をマイナスした実質の生産額というイメージとリンクさせておくと良いです。
GNP(国民総生産)とNDP(国内純生産)の関係
さて、GNP(国民総生産)をスタートに、「海外の影響」だけをマイナスしたGDP、「固定資本減耗」だけをマイナスしたNNPを確認してきました。次はこれらを両方をマイナスするNDP(国内純生産)について確認していきます。計算式にすると以下のようになります。
\(NNP(国民純生産)=GNP−海外からの純受取−固定資本減耗\)
ここまでの流れを分かりやすく図にして説明していきます。以下の流れを確認すれば確実にGNP、NNP、NDPの違いを理解することが可能です。
GNP、NNP、NDPの違いはこのような関係になっています。ちなみに海外からの純受取をマイナスした場合、2文字目がN(National)→D(Domestic)に変わります。また固定資本減耗をマイナスした場合、1文字目がG(Gross)→N(Net)に変わります。
このようにGNPからNDPに到達するまで2つのルートがあるため理解が難しいです。しかしイメージで覚えることで簡単になります。以下のような等式が成立することも理解できるはずです。
\(GNP=GDP+海外純受取\)
\(NDP=GDP+固定資本減耗\)
実際、教科書には上記のようにGDP(国内総生産)を起点として説明されていることが多いですが、ここまで説明した通り、GNP(国民総生産)を起点として考えた方が分かりやすいです。
NNP(国民純生産)とNNI(国民純所得)の意味
上記の説明は生産面を反映する経済指標でした。そのため最後の文字が〇〇PとProductの略となっていました。次に所得面を反映する経済指標をまとめていきます。これからは最後の文字が〇〇IとIncomeの略になっていることにも注目しましょう。
前述の通りマクロ経済学では生産された財・サービスは100%売れるという設定になっています。そのため、生産された財・サービスは全て所得に変換されます。したがって、NNP(国民純生産)とNNI(国民純所得)はイコールの関係になります。
\(NNP(国民純生産)=NNI(国民純所得)\)
前述の図に追加すると以下のようになります。
ちなみにNNI(国民純所得)は「市場価格表示の国民所得」と言われることがあります。市場価格で表示される金額であり、要するに税込前の所得という訳です。
またNNIはNet National Incomeの略であり、日本人が手にする所得の合計を意味します。なお機械コストなどの費用は既にマイナスされているため実質的な所得という意味にないrます。
ここからは、上図に要素を追加しながら説明していきたいと思います。そうすることで、NNI、NI、DIの違いを理解できるようになります。
NNI(国民純所得)とNI(国民所得)の関係
マクロ経済では売れ残りがなく、生産額の100%が所得に変換されることは既に説明しました。しかし消費者は所得の100%を使うことはできません。なぜなら、税金が存在するからです。
ここからは税金を考慮したNI(国民所得)について説明していきます。消費者が実質的に得ることのできる所得は所得全体から税金をマイナスした額になります。
ここで、ついでに補助金についても考えてみましょう。補助金は国などが事業者に対してお金を支給してくれる制度であり、税金と正反対の役割を果たします。つまり、実質的に所得が増えることになります。
実質的な所得を考えるとき、税金と補助金を同時に調整する必要があります。これを計算式で示すと以下のようになります。なお(間接税−補助金)を純間接税としてまとめることも可能です。
\begin{split}
NI(国民所得)&=NNI(国民純所得)-(間接税-補助金) \\
&=NNI(国民純所得)-純間接税\\
\end{split}
これを前述のイラストに加えると以下のようになります。
NNI(国民純所得)から純間接税をマイナス(つまり、税金をマイナスし補助金をプラス)したのがNI(国民所得)となります。ちなみにNIは要素費用表示の国民所得と言われることがあります。要するに税引後の所得という意味合いです。
なおNIはNational Incomeの略であり、海外在住の日本人の所得も含まれます。上図を確認すれば海外からの純受取をマイナスしていないことが一目瞭然です。
NNI(国民純所得)とDI(国内所得)の関係
そこでNI(国民所得)から「海外からの純受取」をマイナスすると、日本国内での国民所得を計算することが可能です。これがDI(国内所得)になります。計算式にすると以下のようになります。
\(DI(国内所得)=NI(国民所得)−海外からの純受取\)
また、NNI(国民純所得)を基準にして考えることもできます。その結果、計算式は以下のように変形もできます。
\(DI(国内所得)=NNI(国民純所得)−純間接税−海外からの純受取\)
この関係をイラストに表すと以下のようになります。
このように、それぞれの関係性を図にして覚えることで、経済指標を理解することが可能になります。ちなみに、法則性から考えると以下の関係も成立しそうに見えます。
しかしNDP(国内純生産)に対応する所得について調べましたが、書籍やネットでは見つけられませんでした。法則的にはNDI(国内純所得)となりそうですが、名言は避けておきます。何らかの事情があるのかもしれません。詳しい方がいましたらコメント欄へお願いいたします。
いずれにせよ、この部分は試験に出題されないため、気にする必要はありません。重要なのはGNP、GDP、NNP、NDPの関係、NNI、NI、DIの関係になります。
三面等価の原則における分配面から見たGDPの覚え方
マクロ経済では売れ残りがなく、生産額の100%が所得に変換されることは何度も説明しました。それと同時に、生産物の購入額も同じ額になります。
例えば、生産者が1,000万円の付加価値を生み出した場合、購入者の支払金額は1,000円になり、所得の合計も1,000万円になります。これを三面等価の原則と言います。
なおGDPについても「生産面から見たGDP」「支出面から見たGDP」「分配面から見たGDP」3通りの計算式が登場します。
生産面から見たGDP
まず生産面から見たGDPは日本国内において一定期間内に生み出された付加価値の合計額であり、以下のような計算式になります。
\(GDP=国内で生産された付加価値の合計\)
前述のGNPも「付加価値の合計」であったため混乱するかもしれませんが、三面等価の原則では「”国内で生産された”付加価値の合計」であるため、海外からの純受取については既に控除されていることに注意しましょう。
支出面から見たGDP
生産物を購入するとき、誰かが代金を支払うことになります。例えば、消費者が購入したり、政府が購入することもあるでしょう。ここに着目したときのGDPの計算式は以下のようになります。
\(GDP=消費C+投資I+政府支出G+輸出EX−輸入IM\)
これについては覚える必要はありません。IS-LM分析やGDPギャップについて学習するとき、毎回登場するため自動的に覚えてしまうからです。
ちなみに、売れ残りが存在する場合の計算式もありますが、上記式に「在庫品増加」をプラスすれば良いだけです。ただ教科書的には以下のようにやや難しい言葉で書かれることが多いです。
\(GDP=民間最終支出+政府最終支出+国内総固定資本形成+在庫品増加+輸出−輸入\)
民間最終支出は消費C、政府最終支出は政府支出Gといったように、それぞれが対応しています。なお支出面から見たGDPはGDE(国内総支出)と記載されることもあります。
分配面から見たGDP
生産物が購入された結果、所得や税金などに分配されます。ここに着目したときのGDPの計算式は以下のようになります。
\(GDP=雇用者報酬+営業余剰・混合所得+固定資本減耗+間接税−補助金\)
これがクセ者であり、暗記が難しいです。そこで一発で覚えられる魔法をお伝えします。これまで何度も登場したイメージ図を思い出しましょう。
この中のDI(国内所得)が雇用者報酬+営業余剰+混合所得に対応します。そこからGDPまで逆算すると以下のようになります。
DI(国内所得)からGDP(国内総生産)に行くためには、純間接税(間接税−補助金)を足し戻し、さらに固定資本減耗を足し戻すルートになります。結果的に、以下の計算式が完成します。
\(GDP=雇用者報酬+営業余剰・混合所得+固定資本減耗+間接税−補助金\)
このように視覚的に場所で覚えてしまえば、全ての経済指標を簡単に覚えることが可能です。
まとめ
生産面から見たとき、ある国民が一定期間に生み出した付加価値の合計をGNP(国民総所得)と言います。GNPから海外からの純受取をマイナスしたものがGDP(国内総生産)であり、固定資本減耗をマイナスしたものがNNP(国民純生産)になります。両者をマイナスしたものがNDP(国内純生産)となります。
また所得面から見たとき、NNI(国民純所得)から純間接税をマイナスしたものをNI(国民所得)といい、さらに海外からの純受取をマイナスしたものをDI(国内所得)と言います。
また分配面から見たGDPについてもDI(国内所得)を雇用者報酬+営業余剰・混合所得と捉えることで、関係性を整理することができます。