不動産取引では、契約書を作成したり登記を行ったりするたびに、さまざまな税金が関わってきます。中でも宅建試験で頻出なのが、「印紙税」と「登録免許税」です。この記事では、印紙税と登録免許税の基本的な仕組みやポイントを、実務との関係にも触れながらわかりやすく解説していきます。

印紙税とは?|文書作成に伴って発生する税金

印紙税とは、売買契約書や領収証など、特定の文書を作成する際に課される税金です。課税主体は国であり、課税客体は「課税文書」と呼ばれる契約書や受取書などが該当します。

納付方法と過怠税

印紙税は「自主納付」が原則です。課税対象となる文書を作成した者が、所定の額の収入印紙を貼り付け、消印(割印)または署名をして納付します。もし印紙を貼らなかったり、貼っても消印しなかった場合は、ペナルティとして「過怠税」が課されます。貼付忘れの場合は本来の3倍(未納分とその2倍)、消印忘れの場合は本来と同額(未納分と同額の過怠税)の過怠税ですが、自主申告すれば1.1倍に軽減されます。

課税対象となる文書と非課税文書

印紙税が課される主な文書は次のとおりです。

  • 1号文書:不動産売買契約書、土地賃貸借契約書など

  • 2号文書:建築請負契約書

  • 17号文書:売上代金にかかる受取書(領収証)

一方で、建物賃貸借契約書(×土地)、媒介契約書、営業に関係しない受取書、記載金額が5万円未満の受取書、国や地方公共団体が作成した文書などは非課税となっています。試験では、どの文書が課税・非課税かを問う問題がよく出されるため注意が必要です。

営業に関係しない受取書について、具体的には個人が生活の用に供している自宅の土地建物を譲渡し、代金1億円を受け取った際に作成する領収証には印紙税は課税されません。

納税義務者と注意点

納税義務者は原則として文書作成者です。たとえば宅建業者が売買契約書を2通作成して売主・買主に渡す場合、2通分の印紙税を宅建業者が納めることになります。

また、作成者が複数いる場合は連帯して納税義務を負います。国や地方公共団体が作成者であれば原則非課税ですが、民間業者が作成した場合、民間側が納税義務を負うことになる点も注意が必要です。

もう少し具体的に考えてみましょう。国と民間企業D社が共同で土地の売買契約書(記載金額5,000万円)を2通作成し、双方で各1通保存する場合を考えます。このとき、D社が保存する契約書については国が作成したものとみなされるため、非課税になります。しかし国が保存する契約書については民間が作成したとみなされるため、納税義務を負うことになります。

印紙税法基本通達第43条

代理人が課税文書を作成した場合、その「作成者」は誰かを判断する基準を定めています。「誰の名前で契約書を書いたか」によって、印紙税を納める責任者(納税義務者)が変わります。

  • 代理人が代理人名義で作成した場合 ➔ 代理人が作成者

  • 代理人が委任者名義で作成した場合 ➔ 委任者が作成者

たとえば、不動産会社が委任を受けて売買契約書を作成する場合、契約書に不動産会社自身の名前を記載して作成したときは、代理人である不動産会社が文書作成者となり、印紙税の納税義務者になります。

一方、契約書に委任者本人の名前だけを記載して作成したときは、委任者本人が文書作成者とされ、本人が印紙税の納税義務を負うことになります。

課税標準と金額設定の考え方

印紙税の課税標準は、基本的に契約書等に記載された「金額」です。売買契約や請負契約の場合は契約金額が基準となり、交換契約の場合は高い方の不動産価格になります。

なお、金額が増額された契約書では増額分のみが課税標準となり、減額の場合は記載金額がないものとみなされ200円の課税となります。

特に、「変更契約」「交換契約」「贈与契約」など特殊なケースでは扱いが異なるため、試験対策上しっかり押さえておく必要があります。

特殊なケースの具体例

不動産を交換する場合でも、契約書を作成すれば印紙税がかかります。しかし、交換契約書の記載内容によって、印紙税を計算するための基準(課税標準)が異なる点には注意が必要です。

まず、交換する不動産それぞれの価格が契約書に記載されている場合は、そのうち高い方の金額が課税標準になります。たとえば、Aさんの土地が2000万円、Bさんの土地が1800万円と記載されていれば、2000万円が課税標準となり、これに対応する印紙税額が決まります。

一方、契約書に交換差金のみが記載されている場合、つまり「交換の差額として金銭を支払う」ことだけが明記されている場合は、その差額金額が課税標準となります。たとえば、交換差金500万円と書かれていれば、その500万円を基準に印紙税が課されます。

また、契約書に2つ以上の課税対象(たとえば売買契約と請負契約など)が含まれている場合もあります。この場合、原則としてそれぞれの金額を合計したものを課税標準とします。ただし、例外として、異なる種類の課税文書(たとえば1号文書と2号文書)が区分できる場合には、それぞれの金額を比較し、金額の大きい方のみを課税標準とする特例が認められています。

また贈与契約の場合は記載金額がないものとみなされ一律200円が課されます。もう一つ注意しなければいけないのが、土地の賃貸借契約は印紙税の課税文書に該当しますが、この場合の記載金額は権利金の額になります。賃料や契約期間については関係ありません。

登録免許税とは?|登記に伴って発生する税金

登録免許税は、不動産の所有権移転や抵当権設定などの登記手続きに対して課される税金です。こちらも国税に分類され、登記を受ける段階で納付する必要があります。

納付方法と納税義務者

登録免許税は、基本的に登記申請時に現金で納付します。ただし、税額が3万円以下の場合は収入印紙による納付も可能です。登録免許税は登記を受けるもの(権利者・義務者)が連帯して納付します。たとえば売買による所有権移転登記では、買主と売主が連帯して納税義務を負います。

ただし、登記権利者が国・地方公共団体や公益法人(学校法人、社会福祉法人、宗教法人など)の場合には、特例的に課税されないことがあります。たとえば、買主が国や地方公共団体であれば非課税になりますが、買主が民間人であれば課税対象となるので注意が必要です。登記権利者(=新たに権利を得る側、通常は買主)が誰かによって、課税されるかどうかが決まります。

課税標準

宅建試験では土地の売買に関わる登録免許税について出題されることが多いです。この場合、課税標準は固定資産課税台帳の登録価格になります。実際の取引価格ではないことに注意が必要です。

登録免許税の対象となる登記と税率

登録免許税が課される主な登記は次のとおりです。

  • 所有権保存登記(税率:4/1000)

  • 所有権移転登記(売買・贈与の税率:20/1000、相続・合併の税率4/1000)

  • 抵当権設定登記(税率:4/1000)

  • 地上権・賃借権の設定登記(税率:10/1000)

一方、不動産の表示登記については登録免許税は課されません。

税率は登記の種類によって異なり、たとえば所有権移転登記(売買によるもの)は通常2%ですが、次に述べる住宅用の特例を満たせば税率が軽減されます。

住宅の場合の特例(軽減税率):よく出題されます

住宅については、一定の条件を満たす場合に登録免許税の税率が軽減されます。主な要件は次のとおりです。

  • 個人自ら居住する目的で取得する住宅であること(法人取得は対象外

  • 床面積が50㎡以上であること

  • 新築または取得後1年以内に登記を行うこと

  • 中古住宅の場合は、一定の耐震基準を満たすこと(昭和57年1月1日以降の建築など)

また、所有権移転登記に関しては売買・競売による取得のみが特例対象となり、贈与や相続による場合は対象外です。この点も試験で引っかけられやすいので注意しましょう。税率に関しては以下のように軽減されます。

  • 所有権保存登記(税率:4/1000)→(軽減税率1.5/1000)

  • 所有権移転登記(売買・贈与の税率:20/1000)→(軽減税率3/1000)

  • 抵当権設定登記(税率:4/1000)→(軽減税率1/1000)