マンションやアパートといった集合住宅は、1棟の建物に複数の人が住む形になりますが、そのような住まいには特有の法律が存在します。それが「区分所有法(くぶんしょゆうほう)」です。この法律は、一つの建物の中にある“個別の住まい”に対して、それぞれの所有者がどんな権利を持ち、どのように建物全体を管理していくかを定めたものです。

たとえば、分譲マンションの一室を購入した場合、単に部屋を所有するだけでなく、建物全体や敷地についても一定の権利や義務を持つことになります。ここでは、そうした権利関係を整理するうえで知っておくべき「区分所有法の基本用語」について、わかりやすく説明していきます。

区分所有権の基本用語

まず、建物の中にある一つ一つの部屋を独立して使える権利を「区分所有権」といいます。そして、その権利を持っている人を「区分所有者」と呼びます。たとえば「301号室を購入した人」は、その部屋に対する区分所有権を持ち、同時にその建物の一部の持ち主でもあるのです。

専有部分と共用部分マンションの権利を正しく理解するための第一歩 ― 区分所有法の基本用語をやさしく解説のちがい

マンションには「自分だけが使う部分」と「みんなで使う部分」があります。前者を「専有部分(せんゆうぶぶん)」と呼び、たとえば自分の部屋の内部やその中の配管などがこれにあたります。専有部分には「構造上および利用上の独立性」が求められ、基本的に壁や床で仕切られた一室が該当します。

一方、「共用部分(きょうようぶぶん)」とは、階段・廊下・エレベーターのように、住人全員が共有して使う場所のことです。共用部分には2つの種類があります。一つは「法定共用部分」といって、建物の構造上当然に共用とされる部分。もう一つは「規約共用部分」で、本来なら個人が使える部屋を、規約で共用と定めたものです。たとえば、空き部屋を集会室や管理事務所に使う場合、その部屋は規約共用部分になります。

共有関係と持分の考え方

共用部分は、原則としてすべての区分所有者の「共有」となります。そして、それぞれがどれだけの割合で共有しているか(これを「持分」といいます)は、自分の専有部分の「床面積の割合」によって決まります。この面積は、壁の中心線ではなく、壁の内側で囲まれた面積が基準です。

この共有持分は、専有部分と切り離して単独で売ることはできません。マンションの1室を売るときには、その部屋に対応する共用部分の持分も一緒に売ることになります。

一部共用部分と管理所有という考え方

マンションには、すべての区分所有者が使うわけではなく、特定の人たちだけが使う共用部分もあります。たとえば「B棟専用の階段」などがそれにあたり、「一部共用部分」と呼ばれます。この場合、管理や費用の負担はその部分を使う人たちの間で行います。

また、規約で定めることで、共用部分の一部または全部を「管理者の所有」とすることもできます。これを「管理所有」といいます。ただし、それ以外の場合に区分所有者以外の人が共用部分を所有することは認められていません。

敷地と敷地利用権とは?

マンションが建っている土地のことを「敷地(しきち)」と呼びますが、実はそれにも2種類あります。一つは建物が実際に建っている土地=「法定敷地」。もう一つは、たとえば駐車場のように一体として使われている土地で、規約で敷地と定められた「規約敷地」です。

区分所有者は、この敷地を利用する権利を持っていて、これを「敷地利用権(しきちりようけん)」と呼びます。この権利の中身は所有権のこともあれば、地上権・賃借権・使用借権のこともあります。

原則として、敷地利用権は専有部分と切り離して単独で売ることはできません。マンションの一室を売るときには、その部屋に対応する敷地利用権も一緒に譲るのが基本です。ただし、規約で特別に定めていれば、分離して処分することも可能です。

管理組合と管理者とは?マンションを支える基本組織

マンションには、建物全体を維持・管理するための「管理組合」があります。この管理組合は、区分所有者全員で構成される組織であり、自動的にメンバーとなるため、脱退することはできません。

管理組合の中で中心的な役割を担うのが「管理者」です。ただしここでいう管理者とは、「清掃や巡回などを行う管理人」とは異なり、**法律上の“代理人”**として、建物の共用部分や敷地、付属施設を管理する責任を持ちます。管理者の選任や解任は、区分所有者および議決権の過半数による集会の決議によって行われます。

たとえば、広い部屋を持つ人は議決権も多く、小さな部屋の人は少ないなど、議決権の重みは専有部分の床面積に応じて決まります。

管理組合法人とは?法人化によるスムーズな管理

管理組合は、必要に応じて「法人格」を取得することができます。これを「管理組合法人」と呼びます。法人になると、不動産の登記や契約がスムーズにでき、外部との法律行為も行いやすくなるというメリットがあります。

法人化には2つの条件があります。1つは区分所有者および議決権のそれぞれ4分の3以上の賛成による集会決議、もう1つはその内容を登記することです。設立後は、理事や監事が選任され、これまでの管理者は退任します。

集会とは?管理組合の意思決定を行う最高機関

「集会」とは、区分所有者全員で構成される管理組合の最高意思決定機関です。共用部分の管理や修繕、大規模な変更などを決定する場であり、非常に重要な役割を担います。

集会を招集するのは原則として管理者ですが、管理組合が法人である場合は理事がその役割を担います。また、区分所有者の5分の1以上で議決権の5分の1以上を有する者は、議題を明示して管理者に集会の開催を請求することができます。この「1/5ルール」は宅建試験でも頻出です。

集会の通知は、会議日の少なくとも1週間前までに行う必要がありますが、これは規約で伸縮させることもできます。すべての区分所有者が同意すれば、招集手続きを省略して開催することも可能です。

集会で決められることと、決議のルール

集会では、あらかじめ通知された議題についてのみ決議することが原則ですが、決議の内容によって必要な賛成数が異なります。

  • 普通決議(過半数)
    区分所有者および議決権の過半数で決められる事項です。たとえば、共用部分の軽微な変更や通常の管理業務などが該当します。

  • 特別決議(3/4以上)
    重要な変更や手続きには、区分所有者および議決権の4分の3以上が必要です。たとえば、規約の設定・変更・廃止、建物の大規模復旧、管理組合法人の設立・解散、使用禁止請求や競売請求などがこれにあたります。

  • 建て替え決議(4/5以上)
    建て替えは特に重要な事項のため、区分所有者および議決権の5分の4以上が必要です。

議事録とその効力

集会の議事内容は、議長と区分所有者2名の署名をもって議事録に記載し、記録に残します。その決議の効力は、後にその部屋を買った人(特定承継人)にも及ぶため、マンション購入時には過去の集会内容を確認することが重要です。

義務違反者への対応も法律で明確に

マンション生活では、他の住民に迷惑をかけるような行為をする人への対応も必要になります。こうした場合に取られる法的手続きが、以下の3つです。

  • 行為停止請求:迷惑行為をやめるよう求める。普通決議でOK。訴訟不要。

  • 使用禁止請求:部屋の使用を禁止する。訴訟が必要。3/4以上の特別決議が必要。

  • 競売請求:強制的に部屋を売却させる。訴訟が必要。こちらも3/4以上の特別決議。

これらは「共同の利益に反する行為」に対する対応であり、単なる隣人トラブルなどには使えません。

建物が壊れた場合は?復旧と建て替えの違い

火災や地震などで建物が壊れた場合、その損害が建物価格の2分の1以下であれば「小規模滅失」とされ、普通決議で修繕が可能です。一方、2分の1を超える損害が生じた場合は「大規模滅失」となり、特別決議(3/4以上)が必要になります。

さらに、建て替えを行う場合には4/5以上の建て替え決議が求められ、反対者に対しても専有部分と敷地利用権を時価で買い取るよう請求することができます。この買い取りには、相手の同意は不要です。