贈与契約とは、贈与者(あげる人)が受贈者(もらう人)に対して無償で財産(物や権利)を移転することを約束する契約です。日本の民法では、無償であることを前提に特有のルールが定められています。

書面によらない贈与と解除

書面を作成しない口頭だけの贈与契約は、贈与の履行が終わっていない部分については、贈与者・受贈者いずれもいつでも解除(取り消し)が可能です

ただし、一度目的物を引き渡すか、所有権移転登記を完了して履行が終わった部分については、解除できません

反対に、書面で取り交わした贈与契約は、原則として解除できず、一度有効に成立した契約は当事者の一方から取り消すことができません。

履行とは何か

贈与契約における履行とは、実際に目的物を相手方に引き渡すこと、または不動産の場合には所有権移転登記を完了することを指します。不動産贈与では、登記または引渡しのいずれか一方が行われると履行完了と見なされ、その時点以降は契約の解除ができなくなります。

担保責任と特定時の状態

民法は、贈与契約が無償であることを配慮し、贈与者が目的物を「契約時に特定された状態」で移転すれば十分としています。つまり、契約締結時にすでに存在していた欠陥や傷などについては、贈与者はその後の損害賠償責任を負いません

たとえば、中古車を贈与する契約で引き渡し時に不具合があれば、そのままの状態で渡すことで契約不適合責任は発生しないとされています。

負担付き贈与

負担付き贈与とは、贈与者が財産を無償で移転する代わりに、受贈者に一定の義務(負担)を課す契約です。代表例として、住宅ローン残債の返済義務を受贈者に負担させるケースや、贈与された不動産の維持管理・介護義務などがあります。

負担付き贈与では、その性質に反しない限り売買契約の規定が準用され、受贈者が負担を履行しない場合には贈与者が契約を解除できるほか、負担の範囲内で担保責任を負うことになります。