売買契約では、売主は買主に対して、契約通りの品物を引き渡す義務があります。もしこの義務を果たせない場合、買主は売主に対して損害賠償や契約解除を請求することができます。また、売買契約には「手付」という概念も重要です。手付は、契約成立の証や、契約解除の際の条件として交付されるお金であり、契約内容によって様々な役割を果たします。

売買契約の基本

売買契約とは、売主が自分の財産を買主に渡すことを約束し、買主がその代金を支払うことを約束することで成立する契約です。この契約は、以下の特徴を持っています:

  • 諾成契約:当事者が合意した時点で成立します。
  • 双務契約:お互いに義務を負う契約です。
  • 有償契約:代金が発生する契約です。

また、売買以外の有償契約についても、売買契約のルールが適用されることがあります。さらに、契約書作成費など、売買契約に関する費用は、売主と買主が同じ割合で負担するのが原則です。

手付の種類

手付には大きく分けて3種類があります。売買契約を結ぶ際、売買当事者が特別な意思表示をしていない場合は、判例により「解約手付」として扱われることが一般的です。以下、それぞれの手付について詳しく説明します。

  1. 証約手付は、売買契約が成立したことを証明するために交付される手付です。つまり、この手付は、契約が正式に結ばれたことを確認するためのものであり、契約解除や違約に直接関わるものではありません。
  2. 解約手付は、契約が成立した後でも、相手方が履行に着手する前であれば、一方が契約を解除できる手付です。具体的には、買主が手付を放棄する(支払った手付金を返してもらわずに諦める)ことで契約を解除することができます。一方で、売主は受け取った手付金の倍額を返すことで契約を解除することが可能です。この手付は、相手方の同意がなくても契約解除ができるという点が特徴です。
  3. 違約手付は、契約に違反した場合に備えた手付で、損害賠償の予定や違約金の役割を果たします。たとえば、債務不履行があった場合に、この手付が違約に対する罰や損害賠償として活用されます。

まとめると、証約手付は契約成立の証明としての手付、解約手付は契約を自由に解除するための手付、そして違約手付は契約違反に備えた手付です。売買契約において、特に意思表示がない限り、一般的には解約手付として扱われるため、買主や売主はそれぞれの方法で契約解除が可能になります。

売主の義務

売買契約では、売主には買主に対して契約通りの財産を渡す義務があります。これを「財産権移転義務」といいます。売主は、引き渡す物が契約で決めた種類品質数量に合っていることを保証しなければなりません。例えば、売買契約後に購入した家に欠陥があった場合、それは品質に関する契約不適合となります。

また、売主は買主に対して、登記や登録など、権利を正式に移すための手続きを行う義務もあります。この義務を果たさないと、売主は「債務不履行」として責任を取らなければなりません。

さらに、売主には「担保責任」と呼ばれる特別な責任があり、契約通りの物を渡さなかったり、権利の移転が正しく行われなかった場合に、追加で責任を負うことになります。

旧民法では売主・買主が気づかない、住んで見ないとわからないような欠陥(隠れた瑕疵)にのみ売主の責任範囲がありましたが、契約で決めた種類品質数量に適合しない項目について責任範囲が広がりました。要するに買主がより保護されるルールに変わりました。

種類・品質に関する契約不適合

売買契約後に購入した家に欠陥があった場合、それは品質に関する契約不適合となります。このような場合、買主は売主に対して「債務不履行責任」を追求することができます。具体的には、次のような権利を行使できます。

  1. 買主の追完請求権
    買主は、売主に対して欠陥を修理するように求めることができます。これを「追完請求権」といいます。なお「履行の追完」とは、相手が約束通りに物事を果たしていない場合、きちんと約束通りにしてもらうよう求めることです。
  2. 買主の代金減額請求権
    売主に対して欠陥を修理するよう催告しても、欠陥が修理できない場合や修理が十分でない場合、買主は支払った代金の減額を請求することができます。ただし、履行の追完が不能な場合、履行の追完を拒絶されたときなどのケースでは催告無しに直ちに代金の減額を請求できます。
  3. 買主の損害賠償請求および解除権
    欠陥により損害が生じた場合、買主は売主に対して損害賠償を請求することができます。また、重大な欠陥がある場合、買主は契約を解除する権利も持っています。ただし、解除を行う場合には履行の追完の催告が必要になります。
  4. 担保責任の期間の制限
    担保責任を追及できる期間には制限があります。法律では、通常、買主が契約不適合を知ったときから1年以内にその旨を売主に通知しなければいけません。そうしなければ、上記のような減額や損害賠償を請求することができなくなります。なお、この期間制限は種類・品質に関する契約不適合のみに適応されます

数量・権利に関する契約不適合

AさんがBさんから100kgの米を購入する契約をしたが、実際に届いたのは90kgだった場合、この不足が「数量に関する契約不適合」です。

また、AさんがBさんから土地を購入し、その土地にAさんが知らない第三者の権利(地上権、地役権、質権など)が付いていたり、土地の一部が他人の所有だった場合、これは「権利に関する契約不適合」となります。

このような場合、買主は売主に対して次の権利を行使できます。これらは種類・品質に関する契約不適合の場合と同じですが、期間制限はありません。

  • 追完請求権:不足分や問題の解決を求める権利
  • 代金減額請求権:代金を減額するよう求める権利
  • 損害賠償請求および解除権:損害賠償や契約解除を求める権利

ちなみに、Aさんが費用を支払って第三者の権利(先取特権、質権、抵当権)を解消した場合、Aさんは売主にその費用を請求することができます。