不動産を売買したり、相続したりするとき、必ず出てくる言葉が「登記(とうき)」です。登記とは、土地や建物についての情報や権利を、法務局のデータベースに記録して公にする制度のことをいいます。
この制度があることで、「この土地は誰のものか」「どんな権利が付いているのか」といった情報を誰でも確認できるようになり、不動産取引の安全性や透明性が保たれます。ここでは、登記の基本構造と、登記をしなければならない場面・しなくても良い場面の違いなどについて、わかりやすく解説します。
目次
登記記録とは?―不動産の「履歴書」
登記記録は、かつては紙で管理されていましたが、現在では**電磁的なデータ(いわゆるオンライン記録)**として管理されています。ひとつの不動産ごとに1つの登記記録があり、その内容は大きく次のように区分されます。
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表題部(ひょうだいぶ):その土地や建物の“物理的な情報”を記載した部分です。例えば土地の面積、所在地、建物の構造などがここに書かれます。
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権利部(けんりぶ):その不動産に関する“権利の内容”を記載します。この権利部はさらに、
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甲区(こうく):主に「所有権」に関する情報(誰がいつ所有したかなど)
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乙区(おつく):所有権以外の権利(抵当権や賃借権など)
に分かれています。
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このように、不動産の登記記録は「物の情報」と「権利の情報」が明確に整理されているのが特徴です。
表示に関する登記は“義務”
登記には、「表示に関する登記」と「権利に関する登記」があります。この2つには登記をする義務があるかどうかという点で大きな違いがあります。
表示に関する登記:登記しないとダメ
たとえば家を新築したときや、土地を造成して使い方(地目)が変わったときには、表示に関する登記を1か月以内に申請しなければなりません。これは主に課税の根拠になるもので、税務上重要だからです。
また、建物を取り壊した場合や、増築・減築した場合にも、1か月以内に変更登記や滅失登記を行う必要があります。ただし、氏名や住所の変更などについては申請義務がなく、任意です。
このような登記については、所有者が申請しない場合、登記官が職権で登記することも可能です。つまり、所有者が何もしなくても、法務局が必要に応じて処理してくれるケースがあります。
権利に関する登記:原則、任意(ただし注意)
一方、売買や贈与などで不動産の所有権が移ったときなどに行う**権利に関する登記(所有権移転登記など)**は、法律上は義務ではありません。登記をしなくても法律違反にはなりません。
しかし登記をしないと、第三者に対してその権利を主張できないという不都合が生じます。たとえば、自分が土地を買っても登記をしないまま放っておいたら、売主が別の人に同じ土地を売ってしまい、そちらが先に登記してしまったというようなトラブルになる可能性があります。
なお、相続による所有権取得については2024年4月以降、登記が義務化されましたので注意が必要です。
分筆・合筆の登記とは?土地の“切り分け”と“くっつけ”も登記が必要
土地に関する登記には、「分筆(ぶんぴつ)」と「合筆(がっぴつ)」という手続きがあります。
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分筆登記:1つの土地を複数に分ける登記
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合筆登記:複数の隣接する土地を一つにまとめる登記
これらの登記を行うことができるのは、表題部所有者または権利部に登記されている所有者本人に限られます。つまり、勝手に第三者が申請することはできません。また、これらの登記は原則として登記官が職権で行うことはありませんが、例外的に職権で行う場面もあります。
たとえば、1筆の土地の一部が別の用途になったり、別の地番区域にまたがることになった場合には、登記官が職権で分筆登記をしなければならないとされています。また、登記所が地図を作成する必要があるときにも、表題部所有者または権利部に登記されている所有者に異議がなければ職権で分筆や合筆を行うことができます。
合筆できない場合に注意!
合筆登記はいつでもできるわけではなく、以下のような場合には申請が認められません。
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土地同士が物理的に接していない
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地目(利用目的)が異なる
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地番区域が異なる
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所有者が異なる
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片方に抵当権などの権利が付いている
このような条件が揃っていないと、土地を一つにまとめることはできないため、実務でも登記前に確認が必要になります。
権利に関する登記は“任意”
不動産登記には大きく分けて2種類、「表示に関する登記」と「権利に関する登記」があります。このうち、「権利に関する登記」は、土地や建物の所有者や、その不動産に付随するさまざまな権利関係を“公に証明する”ための制度です。
不動産の所有や売買、抵当権の設定など、権利関係に大きな変化があるときに行われるこの登記は、トラブルを防ぎ、他人に自分の権利を主張するために欠かせない手続きです。
権利に関する登記の最大の目的は「対抗力」
不動産の売買などで権利が移っても、登記をしなければそのことを第三者に主張する(=対抗する)ことができません。つまり、誰がその土地や建物の正当な権利者なのかを社会的に「見える化」するのが登記の役割です。
このように、登記をすることで第三者に対して権利を主張できる効力のことを「対抗力(たいこうりょく)」といいます。
本登記と仮登記のちがい
登記には「本登記(ほんとうき)」と「仮登記(かりとうき)」という分類があります。
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本登記:対抗力があり、第三者に権利を主張できる正式な登記
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仮登記:現時点では要件が揃っていないが、将来本登記をするために“予約”のような形で入れる登記(対抗力はない)
たとえば、買主が代金をまだ払っていないけれど、いずれ所有権を移す予定だという場合に仮登記をしておくことで、第三者に「この不動産には将来的に所有権が移る予定がある」と示すことができます。
登記の種類とその意味
権利に関する登記には、手続きの内容によっていくつかの種類があります。以下は代表的な分類です。
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保存登記(ほぞんとうき):はじめて行う所有権の登記で、所有者として記録する最初の手続きです。
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移転登記(いてんとうき):所有権を他人に移すときに行う登記。売買・贈与・相続などがこれに該当します。
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変更登記(へんこうとうき):たとえば所有権の内容や持分割合が変更されたときに行います。
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抹消登記(まっしょうとうき):登記されている権利が消滅したときに、その記録を削除する手続きです。
この中でも、宅建試験で特に重要なのは保存登記と移転登記です。
所有権保存登記とは?最初の一歩となる登記
所有権保存登記は、不動産における**“はじめての所有者”を公にする登記**です。これは表題部に物理的な情報(所在地や面積など)が記録された後、権利部に「この不動産は○○さんのものですよ」と初めて記すもので、非常に重要なステップとなります。
所有権保存登記の申請ができる人は?
以下のような立場の人が、所有権保存登記の申請を行うことができます。
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表題部に記載された所有者本人(新築した建物など)
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相続人やその他の一般承継人(亡くなった所有者の法定相続人など)
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裁判によって所有権を有すると認められた人
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土地収用法によって正当に土地を取得した人(公共事業などの強制取得)
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区分建物で、表題部所有者から所有権を取得した人(たとえば分譲マンションの購入者)
このように、ただ所有しているだけではなく、正当な理由や法的根拠がある人に限って申請が認められます。
区分建物の登記とは?―マンションの1室に必要な登記のしかた
区分建物とは、マンションのように一棟の建物を部屋ごとに区切り、それぞれを独立した不動産として扱うものをいいます。それぞれの部屋には「専有部分」として所有権が与えられ、部屋の持ち主(区分所有者)が自由に使うことができます。
また、階段やエレベーター、外壁、敷地などは「共用部分」または「敷地」として全員で共有します。こうした構造のマンションでは、部屋単位で登記が行われることになります。
登記は「全体と部屋」をセットで行う
区分建物の登記は、**「一棟の建物全体の表題登記」と「それぞれの部屋の表題登記」**をセットで行う必要があります。なぜなら、部屋単体で独立して存在しているわけではなく、全体の建物の中の一部という位置づけだからです。
このような事情から、表題登記は原則として分譲業者などが一括して申請するのが通常です。1部屋ずつ登記するのは手間が大きいため、まとめて「一棟+各専有部分」の登記を済ませます。
保存登記の申請者
各専有部分について「所有権保存登記」をする場合は、次のような人が申請できます。
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建物全体の登記に名前がある表題部所有者(たとえば分譲会社)
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分譲会社から部屋を購入した購入者(区分所有者)
つまり、購入者が登記されていない状態であっても、売買契約を結んだうえで登記を申請することができます。
敷地権とは?マンションの部屋とセットの「土地の権利」
マンションの部屋を所有するときには、部屋だけでなく建物が建っている土地の権利(敷地権)も一緒に持つのが普通です。この土地に関する権利のことを「敷地権(しきちけん)」と呼びます。
敷地権の中身は次のようなものがあります。
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土地の所有権
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土地の地上権(使用する権利)
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土地の賃借権や使用貸借権
この敷地権は、「この土地の一部は○○号室の人のためのものです」といった形で、部屋の登記記録(表題部)に職権で表示されます。
さらに、登記官はその土地自体の登記記録の中にも、「これは区分建物の敷地権です」という表示を追加します。この記録が登場する場所が「相当区(そうとうく)」と呼ばれ、所有権(甲区)または地上権・賃借権(乙区)の中に記載されます。
具体例:たとえばこんな形
たとえばAさんが、B不動産からマンションの503号室を購入したとしましょう。このマンションは土地付きで、敷地には共有の所有権が設定されています。
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Aさんの部屋には「503号室・専有部分」として登記がされる
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同時に、「この部屋には敷地権(○○番の土地の共有持分)が付いています」と記載される
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土地の登記記録の権利部(甲区)には、「この土地は○○マンションの敷地権である」と追記される
これが「敷地権である旨の登記」であり、マンションにおいて部屋と土地の権利が不可分であることを示します。
敷地権には制限がある
この「敷地権である旨の登記」がされると、土地の登記記録に対して次のような制限がかかります。
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敷地権だけを単独で売買したり移転登記することは原則としてできない
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敷地権に抵当権などを設定する登記も、部屋の登記と一体でしかできない
これは、マンションの「部屋と土地の権利をセットで動かす」という原則を守るためです。バラバラに処分してしまうと、権利関係が非常に複雑になってしまうからです。
登記の申請は―当事者の申請、嘱託、添付情報
不動産の権利関係を公に記録するためには、登記が必要です。しかし「登記って誰がするの?」「どうやって申請するの?」と疑問に思う方も多いでしょう。実は登記には、**当事者が自ら申請する方法と、行政機関が関わる方法(嘱託)**の2通りがあります。
この記事では、「登記の申請方法」「共同申請と単独申請のちがい」「試験によく出る添付書類」などについて、わかりやすく解説していきます。
登記は「当事者の申請」または「官公署の嘱託」で行う
不動産の権利に関する登記は、原則として権利の当事者が申請することで行われます。これを「当事者の申請」といいます。たとえば、不動産の売買があった場合には、買主と売主が一緒に登記を申請する必要があります。
一方で、「官公署の嘱託(しょくたく)」によって登記が行われる場合もあります。嘱託とは、行政機関が登記所に対して登記を依頼する行為を意味します。たとえば、差押えや収用など、裁判所や役所が関与する場合に使われる方法です。
登記は原則「共同申請」、ただし単独でできるケースもある
不動産の売買など、権利が移転する場合の登記は、原則として「登記権利者(たとえば買主)」と「登記義務者(たとえば売主)」が共同で申請しなければなりません。これは、両者の同意を確認するためです。
しかし、すべての登記が共同申請というわけではなく、単独申請が可能な例もあります。以下は宅建試験でもよく問われる代表的なケースです。
単独申請が可能な登記(暗記必須)
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所有権保存登記(初めての所有権登記)
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相続や合併による権利移転
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確定判決による登記
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登記名義人の氏名・住所の変更登記
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所有権移転登記がない場合の抹消登記
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仮登記
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遺贈による登記
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信託の登記
たとえば、相続で土地を引き継いだときは、売買のように登記義務者(売主)がいないため、相続人が単独で登記を申請することができます。
登記には「申請情報」と「添付情報」が必要
登記を申請する際には、ただ「この人に所有権を移してください」と言うだけではダメで、法務局がそれを裏付ける情報を確認する必要があります。
このとき必要となるのが、「申請情報」と「添付情報」です。特に試験でよく出るのが、次の2つの添付情報です。
登記原因証明情報(とうきげんしょうめいじょうほう)
これは、なぜ登記が必要になったのかという「原因」を証明する書類です。たとえば、
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売買による移転登記 → 売買契約書
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相続による登記 → 戸籍謄本や遺産分割協議書
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贈与による登記 → 贈与契約書 など
これがないと、「なぜこの人が登記すべきなのか」が証明できず、登記は受け付けてもらえません。
登記識別情報(とうきしべつじょうほう)
これは、以前でいう「登記済証(いわゆる権利証)」に代わるものです。平成17年から導入された制度で、**ランダムな英数字の文字列(パスワードのようなもの)**が記載された通知書が交付されます。
たとえば、売主が登記識別情報を使って登記に関与することで、「確かにこの人が現在の所有者です」と証明できるしくみです。
※なお、登記識別情報がなくても登記は可能ですが、本人確認の手続きがより厳格になります。
登記の申請方法はオンラインでも郵送でもOK
登記の申請は、法務局の窓口に出向くだけでなく、**郵送またはオンライン(登記・供託オンライン申請システム)**でも可能です。特に不動産会社や司法書士は、オンラインで手続きすることが増えてきています。
仮登記:不動産登記の“予約席”を確保
不動産を買ったり譲り受けたりしたときに重要なのが「登記」です。しかし、書類がまだ揃っていない場合や、将来的に権利を取得する約束をしている場合など、すぐに本登記ができないケースもあります。そうしたときに活用されるのが「仮登記(かりとうき)」という制度です。
この仮登記は、登記をする「順番(順位)」をあらかじめ確保しておける便利なしくみで、“登記の予約席”のようなものと考えるとイメージしやすいでしょう。
仮登記とは?本登記とどう違うの?
仮登記は、正式な登記(本登記)とは違って、法律上の「対抗力」※は持ちません。つまり、仮登記をしただけでは、第三者に対して「自分が所有者です」と主張することはできません。
※対抗力とは、登記によって第三者に自分の権利を主張できる力のこと。
しかし仮登記には、「順位保全効(じゅんいほぜんこう)」という強力な効果があります。これは、仮登記をした日付が、将来その仮登記を本登記に変えたときの“登記の順番”になるという意味です。
たとえば、仮登記をした人よりも後に他の人が登記をしても、仮登記の人が本登記にした時点で、その人の方が優先されるのです。まさに「予約済み」の状態です。
仮登記ができるのはどんなとき?
仮登記ができる場面は、次の2つに限られています。これは宅建試験でもよく問われるポイントです。
① 書類がまだ揃っていないとき
本登記をするには、売買契約書や本人確認書類など、**法務局に提出すべき書類(申請情報や添付情報)**をすべて用意する必要があります。しかし、何らかの事情でこれらの書類が間に合わない場合は、先に仮登記をすることができます。
② 将来、権利が移る約束があるとき
たとえば、「まだ代金は払っていないけど、将来この土地を買うことになっている」というような場合です。これは、権利を得る「請求権」を保全するための仮登記といいます。
簡単にいえば、「将来の契約のために順番を押さえておく」ための仮登記です。
仮登記から本登記に変えるときの注意点
仮登記を本登記に変えることを「本登記の実行」といいます。このとき、すでに別の人が登記をしていた場合には注意が必要です。
具体例:Cさんの承諾が必要になるケース
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Aさんが自分の土地について所有権保存登記をした。
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AさんはBさんと売買の予約をし、Bさんは仮登記を行った。
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しかしその後、Aさんは別のCさんと本契約をして、Cさんに所有権移転登記をしてしまった。
この場合、Bさんが自分の仮登記を本登記に変えるためには、すでに登記されているCさんの承諾がなければできません。つまり、他の人に本登記されてしまうと、仮登記の実行には「関係者の同意」が必要になるということです。
仮登記の抹消は単独でOK
仮登記は、不要になった場合に抹消(削除)することができます。この場合、仮登記の名義人(登記された人)が単独で申請すればOKです。共同申請ではなく、一人で手続きできる数少ない登記のひとつです。
登記の公開
誰でも登記官に対して手数料を納付して、登記事項証明書と登記事項要約書の交付を請求できます。
職権登記とは?
職権登記とは、登記官が当事者の申請を待たずに、自らの判断で登記を行う制度です。通常、登記は所有者などが法務局に申請して初めて実行されますが、法令で特に認められた場合に限って、登記官が「職権」で登記を実行することが可能です。
■ 職権登記ができる場面
① 表示に関する登記(職権で可能)
不動産の物理的な現況を示す「表示登記」は、次のようなケースで登記官が職権で登記できます。
- 建物が滅失(取り壊しなど)された場合の 滅失登記
- 地目変更や分筆・合筆が必要で、地図作成に必要と認められたとき
たとえば建物が火災で消失した場合、所有者が申請しなくても、登記官が現地調査などを経て滅失登記を職権で行うことができます。
② 権利に関する登記(原則として職権不可)
所有権や抵当権などの権利に関する登記は、原則として当事者の申請が必要で、職権で行うことはできません。
ただし例外として、次のような場合には職権で登記を変更・抹消することがあります。
- 仮登記を本登記にした際に、矛盾する第三者の登記が存在する場合
表でまとめると
登記の分類 | 職権登記の可否 | 具体例 |
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表示に関する登記 | 〇(可能) | 建物滅失登記、地目変更、分筆・合筆登記など |
権利に関する登記 | ×(原則不可) | 仮登記の本登記時に、職権で第三者の登記を抹消 |
宅建試験では、「どの登記が職権でできるか?」という点がよく問われます。表示登記=職権で可能、権利登記=原則不可という基本をしっかり覚えておきましょう。