総則
民法の総則とは、民法全体の基本的なルールや原則を定めた部分のことです。民法は、私たちの日常生活における権利や義務に関する法律で、財産や契約、人との関係などを扱っています。総則はその中でも、民法全体の基礎となる共通のルールをまとめた部分です。
民法は大きく5つの部分に分かれています。①総則②物権③債権④親族⑤相続この中で、総則は一番最初にあり、他の4つの部分に共通する基本的な概念や考え方を示しています。具体的には、次のような内容が含まれます。
制限行為能力者制度
能力には、①権利能力、②意思能力、③行為能力の3つがあります。法的な行為を行うには、これら全ての能力を有している必要があります。そうでなければ契約は無効や取消しとなります。
権利能力とは、「権利や義務を持つことができる力」のことです。日本の民法では、生まれた人は誰でもこの権利能力を持っています。なお法人も権利能力を持っています。たとえば、お金を持つことや、物を買う権利があるのは、この権利能力のおかげです。
ただし、胎児には通常この権利能力がありませんが、特別な場合(相続や損害賠償請求、遺贈)に限って、生まれたものとみなされて権利を持つことができます。
意思能力とは、「自分の行動や決定を正しく理解できる力」のことです。意思能力がない人を「意思無能力者」と呼びます。たとえば、10歳までの幼い子どもや病気の人、泥酔した人などが該当します。意思無能力者が結んだ契約は無効となりますが、これは「取り消し」とは異なるため注意が必要です。
行為能力とは、「自分で有効な契約や約束ができる力」のことです。たとえば、物を買ったり、仕事の契約を結んだりできる能力を指します。しかし、すべての人が行為能力を持っているわけではありません。小さい子どもや判断力が不十分な人には、行為能力が制限されることがあります。こうした人を「制限行為能力者」と呼び、未成年者(18歳未満)、成年被後見人、被保佐人、被補助人が該当します。制限行為能力者が結んだ契約は取り消しとなります。
宅建試験で重要なのは制限行為能力者です。成年者(18歳未満)、成年被後見人、被保佐人、被補助人について、順番に説明していきます。
未成年者制度
未成年は18歳未満の人のことです。未成年者自身が契約などを結ぶ場合には原則として保護者(法定代理人)の同意が必要になります。また保護者が自分に変わって契約などを結んでもらうことができる。これを代理と言います。
なお法定代理人の同意なしに契約を結んだ場合、原則として取り消すことができます。しかし、未成年であってもコンビニで買い物することは可能です。つまり例外が存在します。次の場合は未成年者が単独で行なっても取り消すことができません。
①単に権利を得、または義務を免れる行為
②法定代理人が処分を許した財産の処分行為
③許可された営業に関する行為
①はタダでもらった場合、②は親からもらった小遣いで物を買う、③は親が判断した範囲で営業できる。いずれも未成年者が損をしないと言えるような場合になります。
成年被後見人、被保佐人、被補助人
成年被後見人とは、自身で重要な決定を行うことが難しい方を指します。例えば、重度の認知症や知的障害を持つ場合が該当します。これらの方は、財産の管理や契約の締結を自身で行うことが困難なため、代わりに後見人がすべての重要な決定を行います。このとき同意をするのではなく、成年後見人が代わりに契約を行います。もし成年被後見人が自身で契約を行った場合、その契約は取り消すことが可能です。
被保佐人とは、成年被後見人ほどではないものの、重要な決定を一人で行うのが難しい方を指します。例えば、不動産の売却や遺産相続、借り入れ、他人の債務の保証、訴訟を行う、新築・改築などの重要な決定に関しては保佐人の同意が必要です。日常生活における一般的な行為(買い物など)は自分で行うことができますが、大きな決定については保佐人の助言や同意が求められます。
被補助人とは、基本的には自分で決めごとができますが、特定の事項に関しては援助が必要な方を指します。家庭裁判所が「この人はこの決定を行う際に援助が必要だ」と指定した行為に限って、補助人の同意が必要になります。
取引相手方の保護
催告(さいこく)とは、相手に対して「早く何かをするように」と正式に求める行為を指します。具体的には、契約や法律上の義務を履行するよう相手に要求する場合に使われます。
制限行為能力者と契約した場合、その契約が取り消されるか、追認されるかが不安定な状態になることがあります。このような場合、1ヶ月以上の期限を設けて、制限行為能力者側に追認するか取り消すかを求めて催告することができます。催告できる相手は以下の通りです。
契約の相手方 | 催告の相手方 | 期間内に確答を発しない |
未成年者 | 法定代理人 | 追認 |
成年被後見人 | ||
被保佐人 | 保佐人・行為能力者となった者 | 追認 |
被保佐人本人 | 取消し | |
被補助人 | 保助人・行為能力者となった者 | 追認 |
被保助人本人 | 取消し |
もし判断能力がある本人や法定代理人に対して催告し、期限内に返答がない場合、追認したものとみなされ、その行為は有効となります。つまり、後から取消しすることはできなくなります。
ただし、被保佐人と被補助人に対しては本人に直接催告することもできますが、期限を過ぎても返答がない場合は、判断能力がないため、その行為は無効となります。
無効・取消し・追認
無効とは、最初から法律行為が「なかったこと」として扱われる状態です。例えば、法律に反する契約は初めから無効であり、法的効力を持ちません。無効は誰でも主張でき、時間制限もありません。
取消しとは、一度有効に成立した法律行為を後から「なかったこと」にできる制度です。例えば、未成年者が保護者の同意なく契約をした場合、その契約は有効ですが、後から保護者などが取り消せます。取消しが行われると、行為は最初から無効だったことになります。取消しは本人や保護者、代理人のみが主張でき、追認できる時から5年、または行為から20年以内に行う必要があります。
追認とは、取り消すことができる行為を「取り消さない」として認めることです。例えば、未成年者が結んだ契約を、成人後に有効だと認めること(追認)があります。追認が行われると、その契約は最初から有効だったとみなされ、取消しはできません。
失踪
失踪宣告とは、ある人が長い間行方不明になり、その生死がわからない場合に、家庭裁判所が「その人は亡くなったものとする」と宣告する制度です。この宣告をするには、家族などの利害関係者が家庭裁判所に請求します。失踪宣告には、普通失踪と特別失踪の2種類があります。
普通失踪は、その人が7年間行方不明だった場合に適用されます。この場合、その人は行方不明になってから7年が経過した時点で、死亡したとみなされます。例えば、ある人が10年前に行方不明になり、家族が失踪宣告を請求した場合、その人は7年目に死亡したとみなされます。
特別失踪は、戦争や船の沈没などの特別な危険な状況で行方不明になった場合に適用されます。この場合、その危険がなくなってから1年間行方不明であれば、その人は死亡したとみなされます。例えば、船の沈没事故で行方不明になり、その後1年間生死不明であった場合、その人は船が沈没した時点で死亡したとみなされます。
もし失踪宣告を受けた人が実は生きていた場合、本人や家族などの利害関係者が請求すれば、失踪宣告は取り消されなければなりません。
法人
法人とは、人間ではないけれど、法律上で人と同じように権利や義務を持つことが認められた組織のことです。法人も、人と同じように財産を持ったり、契約を結んだりすることができます。これを「権利能力」といいます。
法人は、大きく分けて社団法人と財団法人の2種類があります。さらに法人は、目的によってさらに営利法人と非営利法人に分かれます。
- 社団法人は、ある目的のために集まった人たち(社員)からなる組織です。社員とは、その法人の活動に参加する人たちのことです。
- 財団法人は、ある目的のために集められた財産を基に運営される組織です。財産が中心であり、人ではなくお金や資産が法人の活動の元になります。
- 営利法人は、利益を得ることが目的の法人です。代表的な例が株式会社で、これは社団法人の一種であり、営利法人でもあります。
- 非営利法人は、利益を得ることを目的とせず、社会的な活動や公益を目指す法人です。
一方で、「権利能力なき社団」というものもあります。これは、法人として正式に認められていないため、法律上で権利や義務を持つことができない団体です。たとえば、町内会やサークルなどがこれに当たります。ただし、特別な場合には裁判の当事者になることができるという例外もあります。
物
民法では、「物」とは、具体的に存在するものを指します。物は、私たちが生活の中で触れたり、使ったりするものすべてです。民法では、物をいくつかの種類に分けて定義しています。
不動産と動産
不動産は、動かせない物のことで、土地や建物がこれにあたります。たとえば、家や学校の建物、畑や山などです。
動産は、それ以外の動かせる物のことです。たとえば、自転車やスマートフォン、ノートや服など、動かすことができる物が動産です。
主物と従物
主物は、単独で使われる物です。たとえば、家そのものが主物になります。
従物は、主物に付属して使われる物のことです。たとえば、家の中にある畳は家屋の従物となります。主物と従物は、主にセットで使われる関係にあります。
天然果実と法定果実
民法では、「果実」という言葉を、実際の果物だけでなく、何かから生み出される利益や収入を表すために使います。果実には2つの種類があります。
天然果実は、自然の中でできるものです。例えば、りんごやみかん、牛から取れる牛乳などがこれにあたります。
法定果実は、契約や法律に基づいて得られる利益です。たとえば、家を貸してもらうときに支払う家賃や、銀行にお金を預けたときに発生する利息などが法定果実にあたります。
果実を生み出す元となる物を元物(げんぶつ)といいます。例えば、家は元物であり、そこから得られる家賃が果実です。
法律行為
法律行為とは、何かの行為をすることで、法律上の効果、つまり法律に基づく権利や義務が生まれる行為のことです。言い換えると、その行為をした結果、法律上で何かが変わる、もしくは決まることです。もしその行為に法律の効果がなければ、それは法律行為とは言いません。
たとえば、りんごを購入するという行為は、法律行為です。りんごを買うことで、お金を払ってりんごの所有権があなたに移る、という法律効果が発生します。一方で、りんごをただ移動させるだけの行為は法律行為ではありません。これは「事実行為」と呼ばれ、法律上の効果は特に生じません。
契約も法律行為の一つです。たとえば、物を売ったり借りたりする契約を結ぶことで、売る側や借りる側に法律上の権利や義務が発生します。また法律行為には、単独行為と合同行為という種類があります。
単独行為とは、一人で行う法律行為のことです。たとえば、遺言を書くことなどが単独行為にあたります。合同行為とは、複数の人が一緒に行う法律行為です。たとえば、社団法人を設立することは、複数の人が集まって決める合同行為です。
無効とは、法律行為が最初から「なかったこと」として扱われることです。たとえば、法律や社会のルールに反する行為、つまり公序良俗に反する場合、その法律行為は無効となり、初めから存在しなかったことになります。
意思表示
意思表示とは、自分の考えや意志を外に表す行為のことです。たとえば、りんごが欲しいと思うことを「効果意思」といいます。これは、りんごを手に入れたいという気持ちのことです。
次に、実際に「りんごをください」と発言することを「表示行為」といいます。これは、自分の意志を相手に伝えるための行動や言葉です。
この効果意思と表示行為を合わせたものが「意思表示」です。つまり、自分の気持ちとそれを相手に伝える行為が意思表示として成り立ちます。
心裡留保(しんりりゅうほ)
心裡留保とは、自分の本当の意思とは違うことをわざと嘘や冗談で意思表示することです。たとえば、「家を売ります」と言いながら、実際には売るつもりがない場合が心裡留保にあたります。
心裡留保による意思表示は、原則として有効です。相手がその意思表示を信じて行動した場合、契約などの法律行為が成立します。ただし、相手が嘘や冗談だと気づいていた、または気づくべきだった(過失がある)場合、その意思表示は無効となります。
さらに、第三者が関わる場合、善意の第三者(心裡留保を知らなかった人)に対しては、その意思表示は有効です。たとえば、Aさんが冗談で家をBさんに売ると意思表示し、その後Bさんがその家をCさんに売った場合、Cさんが冗談を知らなければ契約は有効となります。
虚偽表示
虚偽表示とは、相手と示し合わせて嘘の意思表示をすることです。これは、心裡留保と違い、両方が最初から嘘だと知っている状態で行うものです。たとえば、AさんとBさんが、実際には土地を売るつもりがないのに「土地を売買した」と見せかける場合、これが虚偽表示にあたります。
虚偽表示による契約は、原則として無効です。つまり、双方が嘘だと知っているため、その契約には法的な効力はありません。
ただし、もしこの嘘の契約に第三者が関わっている場合、事情を知らない善意の第三者に対しては、その契約が有効とされることがあります。たとえば、AさんとBさんが示し合わせて土地を売ったと見せかけた後、Bさんがその土地をCさんに売却した場合、Cさんがその虚偽表示を知らなければ、Cさんとの取引は有効になります。
錯誤
錯誤とは、簡単にいうと「勘違い」のことです。心裡留保や虚偽表示は自分が本心とは違うと認識して行いますが、錯誤は気づかずに勘違いして意思表示をする場合です。
たとえば、Aさんがりんごを買いたいと思っていたのに「みかんをください」と言ってしまった場合、これを表示の錯誤といい、このような場合、契約は取り消せることがあります。
動機の錯誤は、意思表示に至る理由が勘違いである場合を指します。動機の錯誤が取り消し可能になるのは、その動機が相手に伝えられていたときのみです。たとえば、「この時計は有名ブランドだから買いたい」とAさんがBさんに伝え、それが間違いであった場合、契約は取り消せますが、伝えていなければ取消しできません。
重過失がある場合、通常は取り消せませんが、相手が錯誤に気づいていたり、相手にも重過失がある場合、またはお互いが同じ錯誤をしている場合には、取り消しが認められます。
なお、心裡留保や虚偽表示と同様、善意の第三者(錯誤を知らなかった人)に対しては、錯誤による契約も有効とされます。
詐欺・強迫
詐欺とは、相手をだまして誤った認識をさせ、その結果、意思表示をさせる行為です。詐欺によって行われた意思表示は、取り消すことができます。たとえば、Aさんが「この土地はすぐに価値が上がる」とBさんをだまして土地を売らせた場合、Bさんはその契約を取り消すことが可能です。
ただし、取引に関わる第三者が詐欺に気づかず(善意の第三者)、その取引を基に新たな契約が行われた場合は、詐欺による契約を取り消すことはできません。たとえば、BさんがだまされてAさんに土地を売り、その後Aさんがその土地をCさんに売った場合、Cさんが詐欺の事実を知らなかったなら、BさんはCさんに対して契約を取り消すことはできません。
強迫の場合は、相手に恐怖を与えて無理に意思表示をさせる行為です。強迫された結果、行った意思表示は、相手方や第三者に対しても取り消すことができます。たとえば、AさんがBさんを脅して土地を売らせた場合、BさんはAさんとの契約を取り消すことができるだけでなく、その土地がCさんに売られた場合でも、契約を取り消せます。
代理制度
代理とは、本人に代わって他の人が法律行為を行う制度です。代理人が本人の代わりに契約や取引をしても、その効果は本人に帰属します。代理には法定代理と任意代理があります。
法定代理と任意代理
法定代理とは、法律で定められた代理人が本人に代わって行動することです。未成年や成年被後見人には、親や成年後見人が法定代理人として指定されます。
一方、任意代理は、本人が自由に代理人を選び、その人に代理権を与えるものです。誰でも任意代理人になることができ、未成年や成年被後見人も任意代理人として選ばれることがあります。
代理権が消滅するのは、次のような場合です。法定代理でも任意代理でも、本人や代理人が死亡した場合、代理人が破産した場合、または代理人が成年被後見人になった場合に代理権は消滅します。また、任意代理の場合に限り、本人が破産した場合や、代理契約が終了した場合にも代理権は消滅します。
代理権の範囲が不明な場合
代理権の範囲が明確でない場合、代理人ができる行為には「保存行為」「利用行為」「改良行為」が含まれます。
- 保存行為:財産を守るために必要な行為です。例えば、家屋の修理や借金の返済など、財産の価値を維持するための行動がこれに該当します。
- 利用行為:財産を有効に使う行為です。たとえば、空いている土地を貸して賃料を得るなど、財産を活用して利益を得るための行動です。
- 改良行為:財産の価値を高めるための行為です。建物を改築したり、土地の整備を行ったりして、財産をより良い状態にする行動が含まれます。
これらの行為は、代理権が明確でない場合でも代理人が行うことが可能とされています。代理人はこれらを通じて、本人の利益を守り、財産を適切に管理します。
代理権の制限
代理権には、制限がかかる場合があります。代表的なものに、共同代理、自己契約、双方代理があります。
共同代理とは、複数の代理人が選ばれた場合、単独で代理権を行使できないケースです。たとえば、親権を持つ両親が共同で子どもの財産を管理する場合、一人だけでは決定できないことがあります。
自己契約は、代理人が本人の代わりに契約を結ぶ際、自分自身が契約相手になる場合のことです。例えば、AさんがBさんの代理人として「Bさんの土地を自分(A)に売る」契約を結ぶ場合、これは自己契約です。この場合、利益が対立するため、通常は禁止されています。
双方代理とは、代理人が両方の当事者の代理を務める場合です。たとえば、AさんがBさんとCさんの双方の代理人となり、Bさんの家をCさんに売る契約を結ぶ場合、これは双方代理です。これも利益が衝突する可能性が高いため、禁止されています。
これらの制限は、代理人が自分の利益を優先しないようにするために設けられています。
顕名
顕名(けんめい)とは、代理人が契約などを行う際に、「自分が本人のために代理で行動している」と相手に示すことです。これを明確にしないと、相手方は代理人が自分自身のために行動していると誤解してしまい、契約が代理人自身のものとされてしまうことがあります。
例えば、AさんがBさんの代理人として土地の売買を行う場合、Aさんは「この契約はBさんのために行っています」と相手に伝える必要があります。これが顕名です。
ただし、顕名をしていなくても、相手方がAさんがBさんの代理人だと知っていた場合、その契約は有効となります。
復代理人
復代理人とは、代理人が自分の代わりにもう一人代理人を選任することによって生まれる代理人のことです。この場合、復代理人は最初の代理人の代理をするのではなく、元々の本人の代理を行います。
たとえば、AさんがBさんを代理人にしていた場合、Bさんが自分の代わりにCさんを代理人として選んだとします。このCさんは、Bさんの代理ではなく、Aさんの復代理人として行動することになります。
法定代理人(たとえば、親権者)は、特別な許可がなくてもいつでも復代理人を選ぶことができます。しかし、任意代理人(契約などで選ばれた代理人)は、本人の許可を得た場合か、やむを得ない事情がある場合にのみ復代理人を選任できます。
無権代理
無権代理とは、代理権を持っていない人が、他人の代理を勝手に行うことです。この場合、代理された本人は、その代理行為を「追認」(その行為を認める)か「拒絶」(その行為を認めない)かを選ぶことができます。追認されれば、その行為は正式なものとして認められますが、拒絶されれば、その行為は無効になります。
無権代理人と取引をした相手は、代理された本人に対して「追認してほしい」と要求できますが、追認されなければ、その取引を取り消すことができます。
無権代理人には責任も伴います。もし代理権が証明できなかったり、本人が追認しなかった場合、無権代理人はその取引に対して責任を負います。例えば損害賠償などです。しかし、取引の相手方が無権代理だと知っていたり、重大な注意不足があって気づかなかった場合には、無権代理人は責任を負いません。また、無権代理人が未成年者や制限行為能力者であった場合も、責任を負いません。
以前は相手方が無権代理人の責任を追及するには善意無過(知らなかった、落ち度がなかった)である必要がありました。しかし、2020年民法改正により、無権代理人に悪意があればには、相手方が善意有過失(知らなかった、落ち度あった)場合でも無権代理人の責任を追及できるようになりました。
表見代理
表見代理とは、無権代理の一種で、代理権がないにもかかわらず、取引の相手が「代理権がある」と信じるに足る状況があった場合に、その取引が有効とされるものです。この場合、代理権を与えたと見なされる本人が責任を負います。
たとえば、AさんがBさんに「私の代わりにこの土地を売ってきて」と伝えたように見えるけれど、実際には正式に代理権を与えていなかったとします。もしBさんがCさんと土地の売買契約を結び、BさんがAの代理人であると表示していたことにより、CさんがBさんに代理権があると信じて契約した場合、Aさんはこの取引を認めなければならなくなることがあります。これが表見代理です。
ただし、取引相手であるCさんが、Bさんに代理権がないことを知っていた場合や、注意を怠って気づかなかった場合、Aさんは責任を負わないこともあります。
表見代理の目的は、取引の相手方を保護し、代理権の有無にかかわらず、信頼した取引が成り立つようにすることです。
停止条件・解除条件
停止条件とは、ある条件が満たされるまでは契約などの効力が発生しないことを意味します。条件が達成されると、初めてその効力が発揮されます。たとえば、「もし大学に合格したら奨学金を支給する」という契約があった場合、大学に合格するという条件(停止条件)が達成されるまでは、奨学金の支給は行われません。合格した時点で効力が発揮され、奨学金が支給されます。
一方、解除条件は、契約などが一旦効力を持っている状態から、ある条件が達成された場合に、その効力が消滅することを指します。たとえば、「もし会社を辞めたら社宅の使用権を失う」という契約があれば、会社を辞めるという条件(解除条件)が達成された時点で、社宅の使用権がなくなります。
つまり、停止条件は条件が満たされることで効力が発生し、解除条件は条件が満たされることで効力が消滅します。
時効
時効につて民法で定められています。時効で重要なのは成立する条件や期間になります。例外も多いため、整理して覚える必要があります。
取得時効
取得時効とは、他人の土地や建物を一定期間、自分のものとして占有することで、所有権を得る制度です。成立には次の3条件が必要です。
- 所有の意思があること。
- 平穏かつ公然と占有していること。
- 継続的な占有を続けること。
この条件を満たし、20年占有すれば取得時効が成立します。もし占有開始時に自分のものだと信じ、落ち度がなかった場合は10年で取得できます。なお占有開始時にその土地や建物が自分のものだと信じていれば、後から他人のものだと気付いても取得時効は成立します
たとえば、Aさんが他人から異議を受けずに10年間土地を使い続けた場合、所有権を取得できることがあります。
消滅時効
消滅時効とは、一定の期間が経過することで権利を行使できなくなる制度です。たとえば、お金を貸した場合、返済を求める権利が消滅時効によって失われることがあります。ただし、所有権や占有権は消滅時効によって失われることはありません。
通常、権利行使ができることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年が経過すると、消滅時効が成立します。どちらか早い方で消滅時効が成立するのが原則です。しかし、例外も多く代表的なものを以下に説明します。
定期金債権の消滅時効期間
定期金債権とは、一定の期間ごとにお金を受け取る権利のことです。たとえば、毎月の養育費や年金の支払いがこれにあたります。このような債権は、支払いが続く限り、定期的にお金を受け取ることができます。
たとえば、BさんがAさんから毎月養育費を受け取る権利を持っている場合、Bさんは毎月その養育費を受け取ることができます。しかし、定期金債権には「消滅時効」という仕組みがあります。これは、一定の期間が経つとその債権を請求する権利が消えてしまう制度です。
日本の民法では、定期金債権は請求できることを知ったときから10年で消滅時効にかかります。また、請求できる時から20年が経過しても時効が成立します。たとえば、Bさんが養育費の支払いを受ける権利があっても、Aさんに請求するのを忘れたまま10年が経過すると、その権利は消滅してしまうのです。
養育費の場合、支払いの約束があったとしても、その契約自体が時効により消滅するため、権利を守るためには、時効期間内に請求することが重要です。
不正行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間
不法行為による損害を受けた場合、損害賠償を請求できる期限が定められています。これを「消滅時効」といいます。損害賠償の請求には、次のようなルールがあります。
まず、損害を受けた人が損害の発生と加害者を知ったときから3年が経過すると、その請求権は時効で消えてしまいます。また、損害が発生してから20年が経過した場合も、たとえ加害者を知らなくても、その時点で請求権は消滅します。
さらに、人の生命や身体に対する損害、不法行為があった場合は、より長い消滅時効が適用されます。この場合、損害と加害者を知ったときから5年、不法行為が起こってから20年が時効期間となります。
例えば、交通事故でけがをした場合、被害者は事故から5年以内に加害者を知り、損害を請求しなければなりません。もし20年以上が経過した場合、たとえ請求していなくても、時効によって請求権は消えてしまいます。
時効の援用と放棄
時効によって権利が消えるためには「時効援用」という手続きが必要です。単に時間が経過するだけでは、自動的に権利が消えるわけではありません。時効援用とは、自分が時効の利益を受けることを正式に主張することです。これをしない限り、たとえ時効が成立しても権利は消滅しません。時効援用は、証拠として残すために内容証明郵便で行うのが一般的です。
また、「時効利益の放棄」もできます。これは、時効によって得られる利益(たとえば、借金が消滅する権利)を自ら放棄することです。しかし、時効が成立する前に「将来、時効を放棄する」と約束することはできず、時効が成立してから初めて放棄が可能です。
たとえば、AさんがBさんにお金を貸し、その返済期限が過ぎたとします。Aさんは10年後にBさんに返済を求めても、Bさんは時効援用を行えば返済義務を免れることができますが、Bさんが時効の利益を放棄すれば、あえて返済をすることもできます。
時効の完成猶予と更新
時効に関して「完成猶予」と「更新」という仕組みがあります。
まず、「時効の完成猶予」とは、時効が成立するまでの期間を一時的に止めることです。たとえば、借金の返済を請求された場合、請求(催告)から6ヶ月間は時効が成立しません。これを「完成猶予」といいます。ただし、この催告を繰り返して何度も完成猶予を延ばすことはできません。
一方、「時効の更新」とは、時効期間をリセットして、最初からカウントをやり直すことです。たとえば、借金をした人が返済を認めた場合(債務の承認)や、裁判所に訴えた場合などは、時効が更新され、再び新たな時効期間が始まります。
たとえば、AさんがBさんにお金を貸して、その返済期限が近づいたとします。Aさんが催告を行うと、その時点から6ヶ月間は時効が成立しません(完成猶予)。その間にBさんが返済の意思を示せば、時効はリセットされ、新たな期間が始まります(更新)。もし裁判を起こした場合は、裁判が終わるまで時効が成立しません。
期間
まず、時間や分、秒を単位にする場合、その瞬間から期間がスタートします。例えば、「10分間貸す」という契約を9:00に始めた場合、9:00から9:10までが貸与期間になります。
次に、日、週、月、年を単位にする場合は、少し違っていて、原則として「初日」は含まれず、翌日から期間がカウントされます。例えば、「3日間貸す」という契約を1月1日に結んだ場合、貸与期間は1月2日0時から始まり、1月4日の24時(深夜)に終了します。
ただし、例外として、1月1日0時ちょうどに貸し始めた場合は、その瞬間からカウントされ、期間は1月3日の24時までとなります。